脳および大脳の構造、大脳新皮質、大脳辺縁系、大脳基底核の場所、働きなどについて解説します。
脳は大脳、小脳、脳幹(中脳、橋、延髄)から構成され、それぞれ異なる役割を持っています。 間脳、小脳、脳幹についてはこちら。
⇒間脳(視床、視床下部)、脳幹、小脳の構造 場所 働きなどについて
目次
大脳
大脳は脳の全重量の約8割を占め、他の動物に比べ特に発達している部分です。高度な精神活動などいわゆる人間らしさと言われるものはこの大脳の働きが大きく関係しています。
大脳は大脳新皮質、大脳旧皮質(辺縁系、嗅脳など)、大脳基底核の3つの構造から成っています。
大脳皮質と言った場合、大脳新皮質を指す場合と旧皮質を含めて指す場合があります。
大脳新皮質
大脳新皮質は新しい脳とも呼ばれます。左右2つの半球に分かれていて、右半球は左半身の運動・感覚や空間的能力、直感的理解に関係し、左半球は右半身の運動・感覚や言語的理解、計算能力に関係しています。
大脳半球の働きには左右差があり、多くは左半球が優位半球、右半球が劣位半球となります。
優位半球は通常ほとんどの右利きの人が左半球、左利きの人でも3分の2は左半球になり、右半球が優位半球の人は全体の1割程度です。
右脳や左脳という言い方をされる場合もありますが、この言い方は俗語に近く、学術用語としては、右半球、左半球が正しい言い方です。
大脳新皮質は中心溝(ちゅうしんこう)、外側溝(がいそくこう)、頭頂後頭溝(とうちょうこうとうこう)などの溝により、前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉の4つの葉に分けられています。
ブロードマンの脳地図
ドイツの神経科学者のコルビニアン・ブロードマンは大脳新皮質を52の領域に分けました。
外側
内側
※以下、1野、2野のように数字で表したものはブロードマンの脳地図に対応したものです。
前頭葉
前頭葉(ぜんとうよう)は言語活動、精神活動、運動に関わる領域です。
大脳の中心溝より前の部分が前頭葉で、大きく分けると前頭連合野、高次運動野、一次運動野の3つに分けられます。(下図の運動野が高次運動野と一次運動野に分けられます)
前頭連合野
前頭連合野は思考、判断、計画、創造、注意、抑制、コミュニケーションなどの機能があり、前頭連合野の中にあるブローカ野は言語を発したり、文字を書くなどの行為に関わっています。
前頭連合野が障害されると意欲の低下や注意障害、我慢ができない、怒りっぽくなるなどの症状が現れます。 いわるる人間らしさはこの前頭連合野の活動に大きく関係しています。
ブローカ野
ブローカ野は優位半球(44、45野)に存在します(多くは左半球)。側頭葉にあるウェルニッケ野と合わせて言語野に分類されます。
運動性言語野ともいい、話したり、書いたりといった筋肉の運動を司ります。 言語を表出する役割を担っています。 ブローカ野が障害されると発話や書字に問題が生じます。
中々言葉が出てこなかったり無口になったりします。文書を書く時も響きが似ている文字や単語と間違うことがあります。
運動野
高次運動野と一次運動野に分けられます。
運動野が障害されると体を動かすことや言葉を発する機能に問題が生じます。
複雑な運動は高次運動野と一次運動野が連動して行われます。
高次運動野
高次運動野は運動前野と補足運動野に分けられます。(6野)
運動前野は外界からの情報を引き金に運動を準備し、補足運動野は自発的に一連の運動を組み立てます。
一次運動野
一次運動野は高次運動野の情報を受けて運動の指令を運動ニューロンに送ります。(4野)
運動眼野
両眼の随意的(自分の意志による)共同運動に関わっています。(8野)
後頭葉
後頭葉には視覚野という視覚に関わる領域があります。
視覚野
視覚野は一次視覚野と視覚前野に分けられます。
一次視覚野
視覚情報から形や色、動きや奥行きなどの情報を抽出し、各情報を視覚前野に送ります。(17野) 一次視覚野が障害されると視野の欠損が起こります。広範囲に障害されると完全な盲となります。また見えていないのに見えていると主張するアントン症候群を発症することもあります。
視覚前野
一次視覚野から受け取った情報から物体の認識や空間認知を行います。
視覚前野が障害されると見えているのにそれが何か分からなかったり、人の顔が識別できなくなったりします。また、色が無くなりモノクロに見えたり、動きが認識できずコマ送りのように見えることがあります。
側頭葉
側頭葉は聴覚、言語、記憶(海馬は大脳辺縁系で扱います)、一部に視覚に関わる領域があります。
シルビウス裂より下に位置し、一次聴覚野、聴覚周辺野、側等連合野、ウェルニック野の4つの領域に分かれています。
一次聴覚野
耳から聴覚情報を受け取り音として感じます。(41、42野) 一次聴覚野が障害されると聾(ろう:耳が聞こえない)となったり、幻聴が聞こえたりします。
聴覚周辺野
聴覚周辺野の正しい場所はまだ分かっていません。
一次聴覚野で受け取った聴覚情報を過去の記憶と照らし合わせて何であるか解釈します。
聴覚周辺野が障害されると、環境音や音楽が理解できなくなることがあります。
例えば電話の音が鳴っても何の音か分からなかったり、音楽を聴いてもただ音が鳴っているだけのように感じます。
側頭連合野
視覚情報に基づいて物体を認識したり、高次の聴覚情報処理や記憶に関わっています。(37野)
側頭連合野が障害されると、見ただけでは物体を認識できなかったり、人の顔を見ても誰だか分からなくなったりします。
ウェルニッケ野
言語を理解する役割があります。ブローカ野同様、優位半球(22野)に存在します(多くは左半球)。
ウェルニッケ野が障害されると言語の理解に問題が生じます。 なめらかに話すことができても内容が相手に通じなかったり、単語の選択を誤りやすく意味の通らない文書を書いたりします。
頭頂様
頭頂葉は身体各部の体性感覚と他の感覚の統合および認知に関わる領域です。
体性感覚野と頭頂連合野の2つの領域に大別されます。
体性感覚野
体性感覚野は一次体性感覚野と二次体性感覚野に分かれています。
一次体性感覚野は対側(左半球の障害なら右半身、右半球の障害なら左半身)の身体各部の体性感覚(温痛覚、触覚、意識できる深部感覚)に関わっています。(1~3野) 二次体性感覚野は一次体性感覚野と視床から感覚刺激を受け取ります。
一次体性感覚野が障害されると、体側半身の物の性質や形を認識する感覚に障害が起こります。また、細かい動作ができなくなったりします。
頭頂連合野
頭頂連合野は上頭頂小葉にある体性感覚連合野と下頭頂小葉の縁上回(えんじょうかい)、角回(かくかい)に分けられます。
頭頂連合野が障害されると、視野に入っているにも関わらず注意を向けないと対側の物体に気付かない、対側のヒゲを剃り残す・髪をとかさない、対側の手足を使わない、積み木など三次元の構成ができない、服を着たり脱いだりできない等の症状を起こすことがあります。
体性感覚連合野
一次体性感覚野から感覚情報を受け取り、空間内での体の位置、運動に関する情報を統合・認識します。(5、7野)
また、後頭葉から情報を受け取り、運動の認識、立体視、空間感覚に関わっています。
体性感覚連合野が障害されると、字を書けなくなったり、見ている場所に手を持っていけないなどの症状が起こります。
縁上回(えんじょうかい)
体性感覚連合野から感覚情報や視覚情報を受け取り物体を認識します。(40野)
縁上回が障害されると、自発的にはできても命令・指示された動作ができなくなったり、言葉を復唱できないなどの症状が起こります。
角回(かくかい)
後頭葉から言語に関する視覚情報を受け取り、読み書き、計算などの一連の行為に関わっています。(39野)
角回が障害されると、読み書きや計算ができなくなったり、自分の指が何指か分からない、左右が分からない、使い慣れていた道具を使用することができなくなる等の症状が起こります。
大脳辺縁系
大脳辺縁系は大脳の内側にあり、脳梁(のうりょう)を取り囲むように存在します。 情動・本能・記憶に関わる発生学的に古い領域です。
構成要素として辺縁葉(梁下野・帯状回・海馬傍回)、海馬、扁桃体、乳頭体、中隔核などがあり、これらをつなぐ脳弓や分界条などが含まれることもあります。
Original Update by?BruceBlaus
帯状回(たいじょうかい)
帯状回は大脳辺縁系の各部を結びつけ、行動の動機づけや空間認知、記憶などに大きく関わっています。
扁桃体(へんとうたい)
扁桃体はアーモンド(扁桃)の形に似ていることからこの名がついており、情動と本能行動の中枢を担っています。
外界からの感覚情報に対して有益・有害、快・不快、好き・嫌いなどの判断を行い、自律神経・内分泌・骨格筋系による身体的な反応や行動、喜怒哀楽、恐怖、不安などの感情的な反応(情動)を引き起こします。
不快な情動には扁桃体を中心としたシステムが働き、快の情動には扁桃体の他に側坐核を中心とした別のシステム(報酬系)も関わっています。
海馬(かいば)
海馬は記憶形成や空間学習に大きく関わっています。
海馬、歯状回、海馬台を合わせて海馬体といいます。
記憶は海馬で一時的に保存された後、大脳新皮質へ送られ長期記憶として保存されると考えられています。海馬の記憶容量はあまり大きくありません。
海馬が障害されると新しい記憶を作ることができなくなってしまいます。
大脳基底核
大脳基底核は左右の大脳半球の深部に存在し、随意運動(自分の意志による運動)の学習やコントロールなどに関わる神経核群です。
Original Update by?Adrian Halga?
大脳基底核は淡蒼球(たんそうきゅう)、被殻(ひかく)、尾状核(びじょうかく)から構成されます。淡蒼球と被殻は合わせてレンズ核としてまとめられ、被殻と尾状核を合わせて線条体といいます。
参考文献
「病気がみえる 〈vol.7〉脳・神経」
医療情報科学研究所 (編集)
「史上最強カラー図解 プロが教える脳のすべてがわかる本」
岩田 誠 (監修)