子供の身長が伸びない理由は何か、SGA低身長症、愛情遮断性低身長症などの低身長症と背を伸ばす方法について解説します。
目次
両親の身長から子供の身長の可能性を知る
『身長は「9歳までの生活習慣」で決まる』(飛田健治 著)という本によると、両親の身長から子供の将来の身長がある程度予測できるそうです。
その計算式(単位はcm)は、男子の場合
(父親の身長+母親の身長+13)÷2±9
女子の場合、
(父親の身長+母親の身長-13)÷2±8
とのことです。
この式によると父親の身長が170cmで母親が160cmとすると、男子の場合、162.5~180.5cm、女子の場合150.5~166.5cmということになります。
仮にこの両親の子供がバスケやバレーボールなどの選手になる夢があり、将来185cm以上になりたいと思っても、両親の身長から判断して、諦めなくてはいけないということが分かります。
しかし考えようによっては180cmまで可能性があるわけなので(男子の場合)俗にいう高身長になれる可能性は十分あるということになります。
その「可能性」が式の最後の±9cm、±8cmという部分にあります。
子供の身長が伸びない理由
子供の身長が伸びない理由には様々なものがあります。
成長ホルモン分泌不全性
成長ホルモンの分泌が十分でないと身長だけでなく体全体の成長に影響が出ます。
腫瘍などの病気がある場合、背が伸びないだけでなく様々な問題を生じるのですぐに治療する必要があります。
⇒成長ホルモン分泌不全性低身長症の原因 症状 治療
SGA低身長症
体重が2,500g以下で生まれた赤ちゃんを「低体重児」といいますが、さらに母親のお腹の中にいる期間に応じた本来の大きさよりも小さく生まれた赤ちゃんを「SGA」(Small for Gestational Age)と呼びます。
SGAの場合でも2歳までに身長が伸び本来の身長に追いつくのが普通ですが、そのままずっと低身長の状態が続いてしまうこことがあります。これをSGA低身長症といいます。
SGAで生まれ2歳を過ぎても成長が遅い場合、成長ホルモン分泌の治療を受けることができるので、病院で相談してみるとよいでしょう。
愛情遮断性低身長症
ストレスは体の成長に悪影響を及ぼします。
子供にとっても最も大きなストレスは親からの愛情が得られないということです。
その最たるものは親からの虐待で、愛情遮断性低身長症という愛情が得られないことによる低身長になりやすいそうです。
育児放棄、薬物やアルコール中毒などで子供の面倒を十分に見られないことも同様です。
これらはストレスだけでなく、低栄養状態が影響している可能性があります。
このような分かりやすい虐待ばかりでなく、親が愛情を注いでいるつもりでも、子供のほうはそれを感じられずに愛情遮断性低身長症になってしまうことがあるということです。
例えば、親は子供にいい学校に入ってほしいとせっせと塾に通わせ、習いごとや家庭教師など勉強ばかりさせたとします。親は子供の将来の為を思って愛情を注いでいるつもりでも、子供は、勉強をしない自分は愛されない、と無意識に感じてしまうことがあります。
これは条件付きの愛情で、低身長にならなくてもアダルトチルドレンとして将来心の問題が生じる可能性があります。
このような問題を無くすには、親は子供に無条件の愛情を注ぐということが大切になります。子供の存在そのものを愛するということです。「生まれてきてくれたことが、私達にとってなによりも幸せなこと」という気持ちが持てていれば、愛情遮断性低身長症や愛情遮断症候群になることはありません。
また言葉だけでなく、特に子供が小さいうちは、抱きしめたりスキンシップをすることが、子供に愛されているという実感や安心感を与えることにつながります。
ストレス
ストレスのある状態は自律神経の交感神経が優位にあり、体が緊張した状態です。このとき副腎からコルチゾール(糖質コルチコイドの一種)というホルモンが分泌されますが、これが増えすぎると成長ホルモンの分泌を抑制してしまいます。
よって過度のストレスは身長の伸びを妨げる可能性があるので注意が必要ということになります。学校でのいじめや人間関係、成績に関することなど、ストレスの要因は様々です。
また両親の不和や離婚等、家庭の中にある穏やかでない空気を子供は敏感に感じ取り、それがストレスとなるので、子供の心のケアに注意を払うようにしましょう。
睡眠不足・不規則な睡眠
成長ホルモンが最も分泌されるのは眠っている時です。
「脳下垂体と下垂体前葉ホルモン 成長ホルモン プロラクチン等について」の記事にも書いた通り、眠りについてから最初の3時間位が分泌のピークとなりますが、この時間だけ成長ホルモンが分泌されるわけではありません。
また子供は大人以上に睡眠を必要とするので、小学生(12歳まで)くらいまでは10時間位は眠るものです。13歳を過ぎても高校を卒業するまでは最低8時間は必要なのですが、最近、スマホやゲームの普及でこれが乱れているそうです。
寝る時間が遅くなると、学校へ行く時間は変わらないので必然的に睡眠時間が短くなることになります。これにより集中力の低下や疲労につながり成長を妨げます。
また体内時計が乱れることで、夜に眠くならず、昼間ウトウトするなど生体リズムの乱れが生じストレスを感じやすくなります。上記したようにストレスは成長を妨げる大きな要因です。
午前中に光を浴びる
生体リズムを整えるためには午前中に太陽の光を浴びることが重要です。光は睡眠リズムをリセットする効果があり、夜眠るために必要なメラトニンの分泌を促します。
普通は登校時などに光を浴びますが、部屋にこもってカーテンを閉めっぱなしにした生活をすると、生体リズムが狂い、夜眠くならない、といった現象が生じます。
運動不足
成長ホルモンは運動後にも分泌されるので、運動は身長を伸ばすために欠かせないものです。また運動が不足すると夜眠くならなかったり、眠りが浅くなってしまうことにつながり、これも成長ホルモンの分泌を妨げます。
子供の場合、外で鬼ごっこをしたり自転車に乗るなどの遊びで十分なのですが、最近は外で遊ぶ子供が少なくなっているといいます。
太陽の光を浴びることで体内でビタミンDの合成が行われ、ビタミンDはカルシウムの吸収を高めます。そういう意味でも外で遊ぶということは体にとって大切なことです。
子供が家にこもっている場合、親のほうで外に連れて行くなど工夫して子供が外で遊べる時間を確保したいものです。
過度の運動
運動は身長を伸ばすために有効ですが、やり過ぎると逆効果になることがあります。
筋肉を鍛えるのは大人になってからでも遅くない
ボディビルなどで筋肉ばかりを鍛えると本来骨の成長に使われるべき肝臓で分泌されるIGF-1(ソマトメジンC:インスリン様成長因子)というホルモンが筋肉の成長に使われ、背が伸びなくなる可能性があります。
筋肉を鍛えるのは骨端線の閉鎖後(身長の伸びが終わる18歳頃)からで十分です。
疲労が強すぎると身長が伸びない
過度の運動による強い疲労により成長ホルモンが骨の成長ではなく、疲労回復に使われてしまい、運動が逆効果になる場合があります。
筋肉痛になるほど頑張ったり、ストレスになるほどの激しい運動は控えたほうがよいでしょう。
身長に関する間違った情報
世の中には身長を伸ばすための誤った情報が溢れています。
役に立たないものにお金を使ったり、体に悪影響を及ぼすようなおかしな伸長法などを行わないよう情報を取捨選択できるようにしたいものです。
牛乳を沢山飲む
牛乳を飲むことはカルシウムの摂取を意味します。
カルシウムは骨を強くしますが、骨を伸ばす作用はないので、いくら牛乳を飲んでも身長が高くなることはありません。
ジャンプする
バスケットボールやバレーボールなど垂直方向にジャンプするスポーツをやっている人は身長が高い人が多いですが、これらのスポーツをやっても背は高くならないそうです。
ジャンプすると背が伸びるのではなく、背が高い人が有利なので、これらのスポーツに背が高い人が集まっているだけとのことです。
逆に剣道やアメフトなどをやると背が伸びない、というのも根拠がないことで、運動の種類が身長の伸びに関係することはないようです。
アルギニンで背が伸びる
背が伸びる、という宣伝文句で「アルギニン」のサプリが売れているようですが、これを飲んでも身長は伸びないそうです。
仮に成長ホルモンを口から摂取しても食物として分解・吸収されてしまうので、背を伸ばす作用は得られません。成長ホルモンは皮下注射で血液中に送らないと効きません。
身長を伸ばす為には
身長がどこまで伸びるかは9歳までにほぼ決定してしまう、と身長の専門医である飛田健治先生は述べています。思春期に伸びるのは骨端線閉鎖前の最後のラストスパートであり、その時に何とかしようとしてももう遅いようです。
最初に示した計算式によると男子でプラスマイナス9cm、女子で8cmの幅があります。 ストレスや睡眠不足、運動不足などが続く生活をすると、この幅がマイナス方向に作用する可能性が高くなります。
プラス方向に作用させるには、小さいうちから規則正しい生活、ストレスの少ない生活、そして十分な運動と栄養を摂るということが大切になります。
成長ホルモンが分泌する時間帯は、睡眠中、食事後、運動後です。なので、この3つを特に大切にする必要があります。朝食を摂らないことは成長を妨げるので、子供のうちは3食しっかり食べることが基本です。
バランスの良い食事を摂る
食事で十分な栄養を摂ることは成長ホルモンの分泌につながります。前述したように特定の食材に身長を伸ばす効果はないので、幅広くバランスの良い食事を心がけることが大切です。
特に、蛋白質は体を作る重要な栄養素なので不足しないようにする必要があります。
蛋白質には肉、魚、卵、チーズなどの動物性蛋白質と、納豆や豆腐など豆類に多く含まれる植物性蛋白質がありますが、どちらも十分に摂取し、野菜や果物でビタミンを摂り、味噌汁、ごはんやパンなどの主食を加え過不足ない食事にすることが必要です。
お菓子やファーストフードを食べ過ぎたり、ごはんとふりかけだけでお腹いっぱいにするなどの偏った食生活はやめましょう。
骨端線が閉鎖すると身長はもう伸びない
骨端線とは骨がまだ成長する(背が伸びる)こと示す線です。これはエックス線で骨を見てみることで分かります。
骨端線があればまだ身長が伸びる可能性があることを表し、無くなっていれば、身長の伸びは止まったと判断できます。
低身長症などの疑いがあれば病院で確認できますが、ただ見たいという場合は保険適用外となる上に、病院で拒否されてしまう可能性もあります。
最後の手段は整形手術
骨端線閉鎖後に身長を伸ばす方法として、わざと骨折させ、骨形成を利用して身長を伸ばす整形手術があります。
この方法はお金がかかるうえに、痛みや感染症その他のトラブルなどリスクを伴うので、お勧めはできません。どうしてもという事情がある人の最終手段といえるでしょう。
参考文献
身長は「9歳までの生活習慣」で決まる | ||||
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