痔とは何か、いぼ痔(外痔核、内痔核)、切れ痔(裂肛)、痔瘻(あな痔)、肛門周囲膿瘍の原因、症状、治療、薬、手術などについて解説します。
目次
痔とは
痔(じ)は肛門周辺の疾患の総称で、いぼ痔、切れ痔、あな痔のことを指しますが、これらの言い方は正式な医学用語ではありません。
正式には痔核(じかく:いぼ痔)、裂肛(れっこう:切れ痔)、痔瘻(じろう:あな痔)といい、この3つは3大痔といわれています。
痔は虫歯に次いで多い病気で、日本人の3人に1人は自己診断で痔があることを自覚しています。さらに検査を行えば10人中7人に痔が見つかるといわれています。
痔核とは
痔の中で最も多いのが痔核(じかく)です。
痔核は肛門の周囲の動静脈にできた動静脈瘤(どうじょうみゃくりゅう)の一種で、血管と結合組織が肛門内にいぼのように盛り上がり、垂れ下がってできたものです。その形状から「いぼ痔」とも呼ばれています。
肛門粘膜と肛門括約筋との間や、肛門上皮と肛門括約筋の間には、便やガスが漏れないように筋線維や動脈、静脈が網の目のように集まってクッションの役割をしています。このクッションを動静脈叢(どうじょうみゃくそう)といいます。
便秘時や硬い便を出そうといきんで肛門に負担をかけることを繰り返すと、動静脈叢が切れて出血したり、血流が悪くなってうっ血することで血管周囲の結合組織が増殖し、動静脈叢が肛門内にいぼのように出てくることがあります。これが痔核です。
痔核は男女ともに痔の約6割を占めています。
痔核の原因
便秘
上記したように便秘は便を硬くし、肛門を傷つけてしまいます。
特に排便でいきむことは内痔核の原因となりやすいです。
⇒便秘とは 便秘を解消する食べ物 マッサージ 運動 ツボ等について
同じ姿勢でいる
長時間同じ姿勢をとることは痔核の要因となります。立ち仕事で立ったまま動かない、デスクワークなどで座ったまま動かないことは便秘を招きます。
警備員、長距離トラックの運転手、飛行機のパイロット、コンピュータを扱う仕事などは注意が必要です。
↓痔から身を守るクッションです。
腹圧をかける
お腹に腹圧のかかる運動や行為も要因です。
自転車、乗馬、ウェイトリフティング、トランペットの演奏などがこれに該当します。
妊娠・出産
妊娠してお腹が大きくなると子宮が周囲の血管を圧迫し肛門の血管がうっ血します。出産の際に強くいきむことも要因となります。
香辛料・アルコール
とうがらしなどの香辛料は肛門を刺激し炎症の原因となります。
アルコールも炎症の原因となる上、大量に飲むと下痢を起こしやすくなり痔核を悪化させます。
内痔核と外痔核
痔核はできる場所によって内痔核(ないじかく)と外痔核(がいじかく)に分けられます。歯状線(しじょうせん:直腸と肛門の境)より内側(上側)にできるものが内痔核、外側(下側)にできるものが外痔核です。
歯状線より内側は自律神経に支配された領域なので痛みを感じません。外側は皮膚と同じ体性神経の支配下にあるため敏感に痛みを感じます。
By WikipedianProlific – [1], CC BY-SA 3.0
内痔核とは
内痔核は歯状線より内側(上側)にある動静脈叢が大きくなって肛門の中に垂れ下がったものです。肛門から外に脱出したものを脱出性内痔核(脱肛)といいます。
内痔核の症状
内痔核は症状によってⅠ度~Ⅳ度までの4段階に分類されます。
内痔核は通常痛みをあまり感じません。
進行度 | 症状 |
---|---|
Ⅰ | 排便時に出血するが痔核は脱出しない 痛みは無い |
Ⅱ | 排便時に痔核が脱出するが排便が終わると元に戻る 出血はするが、痛みはほどんど無い |
Ⅲ | 排便時に痔核が脱出し指で押さないと戻らない 戻し方が悪いと痛んだり戻す時に出血する |
Ⅳ | 排便に関係なく痔核が脱出しっぱなしになる 痔核が複数出ることもあり、肛門の周辺に強いかゆみが出ることもある |
内痔核の治療
病院へ行った場合多くは保存療法(薬物療法など手術をしない治療)で対処できますが、完全に治癒させる為にはセルフケア(下記「痔のセルフケア」参照)がとても大切になります。
応急手当
トイレを出たらお腹の下にクッションをあててお尻を高くし、横になって安静にします。脱脂綿を丸めて肛門にあてておくと、止血効果が高まります。
便をやわらかくする食事をするようにし、便秘を防ぐようにします。 肛門部のうっ血をとり清潔にする為に入浴を欠かさないようにします。
市販薬はどうしても病院で治療が受けられないときに用いるようにします。
処方される薬よりも成分が強い傾向があります。特にステロイド系の成分は副作用も強いので注意が必要です。
薬物療法
外用薬として、座薬(ざやく:肛門に挿入する薬)、塗り薬が用いられます。ステロイドが含まれているものは長期使用しないように注意する必要があります。
内服薬として、消炎薬、血液循環改善薬、トリベノシド製剤などが処方されます。
手術
手術が検討されるのは基本的には進行度がⅢ度以上の場合です。
内痔核を取り除く為に行われる結紮切除法(けっさつせつじょほう)は最も一般的な手術です。1箇所につき15分ほどの手術で1~2週間の入院が必要です。
他にも症状に応じて様々な手術方法があります。
レーザー療法
内痔核の大きさを縮小するために主に行われます。
手術に比べ、症状が完全に消えないこともありますが、入院が不要あるいは短期間で済むので広く行われている方法です。
嵌頓痔核(かんとんじかく)
内痔核が大きくなり痔核の根元が肛門括約筋で締め付けられ、うっ血してしまうものを嵌頓痔核といいます。
上記の進行度に関係なく脱出した痔核を指で押しても肛門内に戻りません。
患部が大きく腫れあがり、激しい痛みを伴うのが特徴です。 通常出血は多くありませんが、表皮が破れるとかなりの出血が起き手術が必要になることがあります。
外痔核とは
外痔核は肛門付近の皮膚の血管と結合組織が歯状線より外(下側)にしこり(豆粒大)となったものです。
外痔核の症状
ほとんどのケースで激しい痛みを伴います。
排便に関係なく、痛みや出血が起こります。 重いものを持ち上げたり、ゴルフをしたときなど腹圧をかけるこでと肛門が痛むことがあります。
外痔核の治療
やわらかい便が出るような食事を心がけます。内痔核に比べ、簡単な治療で治癒します。
応急手当
肛門の血行不良が一因なので入浴やカイロを使う等お尻のまわりをよく温めるようにします。 どうしても痛みが我慢できないときは市販の鎮痛薬を使います。
薬物療法
消炎薬などが投与されます。
手術
手術をすることはまれですが、痛みが強く、腫れが大きい場合に、切開して血栓を取り除くことがあります。
裂肛とは
裂肛(れっこう)は硬い便が肛門から出るときに歯状線(しじょうせん:上記痔核の図を参照)より外側(下側)の肛門上皮が切れて裂け、激しく痛んだり出血が起こる痔です。切れ痔、裂け痔と呼ばれることもあります。
裂肛はどちらかというと女性に多い痔です。 裂肛は単純性裂肛、慢性潰瘍性裂肛、他の疾患に伴う裂肛の3タイプに分類されます。
単純性裂肛
一般的な裂肛はこの単純性裂肛を指します。
便秘の女性にみられる裂肛の大半はこのタイプです。
慢性潰瘍性裂肛(まんせいかいようせいれっこう)
単純性裂肛を放置しておくと、何度も同じ所が破れるので、裂け目が徐々に深くなり、傷が内肛門括約筋(上記痔核の図を参照)に及ぶようになります。
潰瘍とは粘膜の炎症にとどまらず、傷がその下の層にまで及んだ状態をいいます。
裂肛のまわりに炎症が起こり肛門ポリープや見張りイボができることもあります。これらの出来物や裂け目に潰瘍ができることで肛門上皮が再生できなくなります。すると肛門が狭窄(きょうさく)し便が細くなるなど排便が困難になります。
他の疾患に伴う裂肛
内痔核や肛門ポリープが排便時に脱出することで側方の肛門上皮に裂傷が生じたものです。
裂肛の原因
便秘
最大の原因は便秘です。 便秘時の硬い便に肛門上皮が耐えられなくなり裂けてしまいます。
⇒便秘とは 便秘を解消する食べ物 マッサージ 運動 ツボ等について
出産
腹圧をかけることで便秘同様に原因となります。
下痢
水分の多い便は肛門粘膜に浸透して炎症を起こしやすくします。特に慢性的な下痢になると粘膜はダメージを受け続けてしまいます。そのためすぐに粘膜が切れて裂肛が起こります。
⇒下痢の原因は?下痢してる時の食べ物 乳糖不耐症 水様便とは
同じ姿勢でいる
痔核同様、同じ姿勢で居ることは肛門の血流を悪くし、裂肛の原因となります。
立ったまま動かないでいる、座りっぱなしのデスクワークなどをする人は注意が必要です。
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裂肛の症状
排便時の痛み、出血、違和感などです。 痛むことで排便を我慢してしまうと便秘が進み、ますます便が硬くなってしまい悪循環を招きます。
いきんだ拍子にピリッと痛んだり、排便後も痛みが続くことが特徴です。
肛門狭窄(こうもんきょうさく)
裂肛が長期間に及び、慢性潰瘍性裂肛になると、切れた粘膜が治る度に肛門が狭くなっていく場合があります。結果的に便が出にくくなったり、細い便しか出せなくなるものが肛門狭窄です。
裂肛の治療
原因となった便秘や下痢の治療がとても大切になります。
薬物療法
内痔核と同様に外用薬として、座薬、塗り薬が用いられます。内服薬として、消炎薬、血液循環改善薬、トリベノシド製剤などが処方されます。
手術
保存療法で症状が改善されず、肛門狭窄で排便時の苦痛が強い場合は手術が行われます。
慢性潰瘍性裂肛の手術として傷口に正常な肛門皮膚を覆うスライディング・スキン・グラフト法(皮膚移行術)や、内肛門括約筋を切って筋肉の緊張を取リ除く内肛門括約筋側方切開術などが行われます。
手術内容にもよりますが、数日~2週間の入院が必要となります。
肛門周囲膿瘍と痔瘻
Original Update by Armin Kubelbeck
肛門周囲膿瘍とは
肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)は歯状線(しじょうせん)にある肛門陰窩(こうもんいんか)というくぼみから細菌が侵入し肛門腺に感染することで膿瘍(のうよう:うみがたまった状態)を形成したものです。
症状が現れたらなるべく早く治療する必要があります。自然治癒することはほとんどなく、放置すると痔瘻に移行してしまいます。
上図の左側はすべて肛門周囲膿瘍です。できる部位によりそれぞれの呼び名を使う場合があります。
※人間の肛門腺の機能は退化したといわれていますが、脂質や粘液の分泌は現在でも行われているようです。
肛門周囲膿瘍の原因
便秘でトイレでいきんだり、勢いよく出た下痢が肛門陰窩から肛門腺に押し込まれることで感染します。通常は強い免疫で感染することはありませんが、ストレスや体力が落ちているときなどに感染し化膿を起こします。
肛門周囲膿瘍の症状
排便に関係なくお尻がはれてズキズキ痛む、発熱(38度以上)などです。
肛門周囲膿瘍の治療
切開して膿(うみ)を出し、抗菌薬の投与を行います。
痔瘻とは
痔瘻(じろう)は男性に多い痔です。
多くは肛門周囲膿瘍を最初に発症し、溜まった膿(うみ)が圧力の少ない部分を浸食しながら瘻管(ろうかん:上図右側の青い線)と呼ばれるトンネルを形成し瘻孔(ろうこう)という膿の出口となる穴を作ります。
細菌が侵入した肛門陰窩を一次口といい、最初に感染した肛門腺を原発巣(げんぱつそう)、瘻孔を二次口といいます。お尻に穴ができることからあな痔とも呼ばれます。
痔瘻を長期間放置すると肛門管癌(こうもんかんがん)になることがあるので注意が必要です。
痔瘻の分類
上図の痔瘻はパークス(Parks)といわれる世界的な分類方法で、瘻管のできる位置から5つに分類されたものです。
日本では以下の4つのタイプに分類します。
Ⅰ型痔瘻
皮下痔瘻、粘膜下痔瘻とも呼ばれるもので、上図の表在型痔瘻にあたります。肛門括約筋を貫いていない痔瘻です。
裂肛の裂け目に便が詰まることで起こることが多く、肛門腺が原発巣で無いこともあります。
Ⅱ型痔瘻
筋間痔瘻と呼ばれるもので上図の括約筋間痔瘻のことです。痔瘻の中で最も多く、70%以上を占めます。瘻管が内肛門括約筋と外肛門括約筋の間を通ります。 歯状線より上にできるものを高位筋間痔瘻といい、下にできるものを低位筋間痔瘻といいます。
Ⅲ型痔瘻
坐骨直腸窩痔瘻(ざこつちょくちょうかじろう)と呼ばれるもので上図の括約筋貫通痔瘻または括約筋上痔瘻にあたります。痔瘻の約20%を占めます。肛門の背側が原発口となり外肛門括約筋を貫いて瘻管ができます。
Ⅳ型痔瘻
骨盤直腸窩痔瘻(こつばんちょくちょうかじろう)と呼ばれ上図の括約筋外痔瘻を含む瘻管が外括約筋を超えて伸びている痔瘻です。発生はまれです。
痔瘻の原因
肛門周囲膿瘍は大きな原因の一つです。
肛門周囲膿瘍を経ずに痔瘻になることもありますが、原因は同じで、便秘や下痢、同じ姿勢を取り続けるなど、これらにストレスや疲労が加わることで起こります。
またお酒を飲む男性に多く見られる傾向がありますが、これはアルコールの飲み過ぎによる下痢が原因と考えられます。
⇒下痢の原因は?下痢してる時の食べ物 乳糖不耐症 水様便とは
痔瘻の症状
お尻が腫れて痛み、排便に関わらず肛門や二次口から膿や分泌物が出てきます。
下着の汚れは痔瘻発見の手掛かりとなります。
膿の刺激による皮膚のかゆみやびらん(ただれたような状態)が生じることもあります。
痔瘻の治療
応急手当
うつぶせに寝て熱を持った患部をタオルなどで冷やします。
排便後は入浴などで清潔にします。
手術
痔瘻はほとんどのケースで手術が必要となります。
Ⅱ型痔瘻で約10日間、Ⅲ型痔瘻で2週間程の入院となります。
痔瘻の位置などにより術式は異なりますが、瘻管を切り取る瘻管切開開放術式や、肛門括約筋を残して痔瘻を取る肛門括約筋温存手術などが病状に応じて行われます。
痔のセルフケアと予防
痔は生活習慣病ということができます。痔核や裂肛は初期段階なら生活習慣を変えることで治すことが可能です。また通院している状態でも早く治す為や再発防止の為にも日常生活の危険因子を取り除く必要があります。
便秘を治す
便秘は痔の大きな要因なので、早く治す必要があります。痔だけではなく全身の様々な病気の原因にもなります。
便秘を治す為には食生活の改善や普段の生活に運動を取り入れ腸の蠕動運動を促すことが必要です。生活習慣を変えずに下剤などの薬に頼ってしまうことは危険なのでやめましょう。
⇒便秘とは 便秘を解消する食べ物 マッサージ 運動 ツボ等について
下痢(ストレス)に注意する
下痢はストレスに大きく関係しています。頻繁に下痢をする場合、何か普段の生活で無理をしている可能性があるので、精神的負荷をかけている要素を見直してみたほうがよいでしょう。
ストレスは免疫力を低下させるので、下痢が痔の原因となることに大きく関連しています。
⇒下痢の原因は?下痢してる時の食べ物 乳糖不耐症 水様便とは
同じ姿勢でずっと居ない
立ちっぱなしの仕事やデスクワークをする場合、定期的に姿勢を変えるように心がけましょう。
この記事の参考文献である「痔の最新治療―可能な限り切らずに治す」ではパソコン作業などをする人は、1時間に1回は立って10m歩くことを推奨しています。タイマーを1時間に設定し、鳴ったらトイレに行くとか、立って足踏みするなどしてお尻の血流を滞らせないようにします。
長距離ドライバーやデスクワークする人の為のクッションなどもあります。
⇒医師が考案した低反発円座クッション「お医者さんの円座クッション」
体を冷やさない
冷房などで体を冷やしてしまうことも良くありません。冷房化や冬は体を冷やさない工夫が必要です。入浴は肛門の血行を良くするので、シャワーで済まさずお風呂に毎日入ると良いでしょう。
西式甲田療法
西式甲田療法では、痔や痔ろうを改善することが可能です。
重症の場合は専門家の指導の元行うようにしてください。
⇒難病 原因不明の病気が治る西式甲田療法とは 少食 断食の効果について
参考文献
「痔の最新治療―可能な限り切らずに治す (よくわかる最新医学)」
平田 雅彦 (監修)