HIVやAIDS(エイズ)について解説します。
HIVとはウイルスの名前でHuman Immunodeficiency Virusの略称です。
エイズ(AIDS:Acquired Immune Deficiency Syndrome)は後天性免疫不全症候群という病気でHIVに感染したことが原因で発症しますが、発症までに数年~十年以上を要します。
HIV感染の原因として性行為、注射器などによる血液感染、HIVに感染している母親から感染する母子感染などがあります。
HIV感染者との性行為による感染は主に体液と粘膜の接触により起こります。
また、皮膚に傷がある場合、HIVを含む体液が傷に触れることで感染する可能性があります。
体液とは男性の精液、女性の膣分泌液(膣液)、血液のことです。
粘膜とは男性の亀頭部分、女性の膣粘膜、腸粘膜(腸管粘膜)、口腔粘膜などのことです。
目次
HIV感染時の症状とエイズ発症について
感染から数週間後に発熱などインフルエンザの様な症状が出ることが多いですが、すべての感染者に起こるわけではありません。
その後は無症状のまま数年以上が経過した後、エイズを発症します。
まれに持っている免疫の種類によりHIV陽性でありながらエイズにならない人もいます。このような人をHIVエリートコントローラーといいますが、その割合は1%以下です。
HIVの検査
いつ検査すればいいか
危険と思える性行為などを行った1~3ヶ月後に検査をします。
陽性反応は1ヶ月後から出ることがありますが、その時点で陰性でもその後陽性となることがあるので1回の検査で済ませたいなら3ヶ月後に行います。
陽性の場合早く対処するほうが良いので、1ヶ月後・2ヶ月後・3ヶ月後の3回検査、または1ヶ月後と3ヶ月後、2ヶ月後と3ヶ月後の2回というように複数回検査すると確実性が増します。
検査方法と場所
HIVに感染しているかどうかは血液検査で知ることができます。
保険所での検査は無料(匿名)でできます。
地域によって保険険センターや相談所などでも行っている場合があります。
もちろん病院でも検査してもらえますがこの場合は有料です。
HIVの治療と完治した例 エイズ(AIDS)の発症と症状について
HIV検査で陽性となった場合、治療として抗HIV薬の投与による抗HIV療法が行われます。
ただし、抗HIV薬は副作用も強いため現在ではHIV陽性反応が出てもすぐには投与せず、まずは免疫細胞の状態をチェックします。
HIVがエイズ(AIDS)を引き起こすメカニズム
HIVはレトロウイルスという種類のウイルスで、CD4陽性T細胞(CD4陽性リンパ球)という免疫細胞に侵入し内部で自身を複製しつつ増殖します。
HIVに感染したCD4陽性T細胞はHIV増殖により死滅し、増殖したHIVは他のCD4陽性T細胞に侵入し、増殖とT細胞の破壊を繰り返します。
HIVは増殖スピードが速いことに加え、複製の際にコピーミスが生じることがあり、これにより変異株が現れます。このため、ヒトの免疫細胞は新たな敵に対応しきれずHIVを排除できません。
この変異株の存在は薬に対する耐性にもなり、HIVを完治させる薬が作れない要因となっています。
CD4陽性T細胞とは?
T細胞は白血球の中のリンパ球の一種で、CD4陽性T細胞はこのうちのヘルパーT細胞と呼ばれるものです。
CD4とはタンパク質の名前でこれを持っているヘルパーT細胞をCD4陽性T細胞といいます。
ヘルパーT細胞は他の免疫細胞に司令を出す役割があり、免疫系の中心的な役割を担う司令官ともいえます。 HIVはこの司令官をやっつけてしまうため、ヒトの免疫機能が落ちてしまうというわけです。
なおHIVはCD4と呼ばれるタンパク質から侵入するのでCD4を持たないT細胞や他の免疫細胞が攻撃されることはありません。
T細胞は骨髄で作られた後、胸腺(きょうせん)で成熟するという過程を経てからリンパ組織に移動します。
正常な人でCD4陽性T細胞の数は700~1300/μL、多くの人は800~1000/μLと言われています。 この値が200/μL以下まで下がるとエイズ発症の徴候が現れる可能性が高くなります。
エイズ(AIDS)発症までの過程
HIVに感染し陽性となってもエイズを発症するまでに数年~十数年かかります。
この間は無症候キャリア期(AC期)といい、HIVはCD4陽性T細胞を破壊し増殖しますが、CD4陽性T細胞も新たに体内で作られHIVに対抗している状態です。
しかしやがてHIVの増殖に対してCD4陽性T細胞の産生が追いつかなくなり、免疫系に支障が生じます。
すると発熱、下痢、体重減少などの症状が現れます。この時期をAIDS関連症候群期(ARC期)といい、エイズ発症が目前に迫っていることを表します。ARC期の期間は数ヶ月程度です。
HIV検査をしておらず、自分が感染していることを知らない場合、この時点でも風邪を引いてしまったと思うだけでしょう。
エイズ発症と症状
エイズは日本語で後天性免疫不全症候群といいます。
エイズとはT細胞の不足により免疫不全(免疫が機能しない)が起こり、外敵から体を守れなくなってしまう状態のことで、この時期をエイズ期(AIDS期)といいます。
私達の体内には様々なウイルス、細菌、寄生虫、真菌などが共生しています。
これらは普段、免疫細胞により一定の割合に抑えられていますが、免疫力が低下すると増殖しそれぞれ病気を起こす場合があります。これを日和見感染(ひよりみかんせん)といいます。
日和見感染は加齢やストレスなど免疫力が低下して起こる場合もありますが、エイズの状態ではこれらが非常に起こりやすくなります。
エイズの症状とは?
エイズとは免疫不全により様々な病気にかかりやすくなってしまう病気です。
従ってエイズの症状は、引き起こされる病気によって異なる、ということになります。
例えば肺炎を発症し激しい咳(せき)や痰(たん)が出る場合もあれば、食道でカンジダが増殖し、物を食べたときに喉の痛みを訴える場合もあります。
カンジダが目で増殖すれば視力低下や最悪失明することもあります。
下記に診断基準となる病気を記載しますが、これら以外にも様々な病気にかかりやすくなる為、症状は個々人で違うということになります。
エイズ診断基準となる病気
検査によりHIV感染症と診断され下記の病気が一つでも認められた場合エイズと診断されます。
診断基準となる病気は現在23個あります。
それまでHIV検査を受けておらず、これらの病気を発症して初めて自分がHIVに感染していたことを知る人も少なくありません。
日和見感染症
真菌症
カンジタ症、クリプトコッカス症、コクシジオイデス症、ヒトプラズマ症、ニューモスチス肺炎
原虫症
トキソプラズマ症、クリプトスポリジウム症、イソスボラ症
細菌感染症
サルモネラ菌血症、化膿性細菌感染症、活動性結核、非定型抗酸菌症
ウイルス感染症
サイトメガロウイルス感染症、単純ヘルペスなどヘルペスウイルス感染症(帯状疱疹)、進行性多巣性白質脳症
腫瘍
カポジ肉腫、原発性脳リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、浸潤性子宮頸癌
その他
リンパ性間質性肺炎・肺リンパ過形成、反復性肺炎、HIV脳症、HIV消耗性症候群
HIV/エイズ(AIDS)の治療
HIVの治療はCD4陽性T細胞が血液中にどのくらい存在するかを検査し、その値がある程度低くなった時から治療を開始します。
薬の副作用が強い場合あまり早くから始めても体に負担がかかるので、薬の種類や状況に応じて判断します。
また治療を早い時期から行うことで薬剤に耐性を持ったウイルスが出現してしまうというリスクもあります。
かつてはCD4陽性T細胞数が200/μL以下とか350/μL以下から始めていましたが、2016年3月の抗HIV治療ガイドラインでは500/μL以下という早い段階から治療を始めることが推奨されています。
500/μL以下の場合に強い推奨(AI)、500/μLより多い場合は中等度の推奨(BI)とした。ただし、妊婦では500/μLを越えていても治療開始を強く推奨する(AI)。
多剤併用療法(HAART)
現在HIVの治療は抗HIV薬を3剤以上併用して投与するHAARTという方法が行われます。
HAARTは更に略してARTと呼ばれることもあります。
抗HIV薬を多剤併用することで、ある薬に耐性を持ったウイルスがいても他の薬が効くのでHIVの増殖を抑えることが可能です。
HAARTの普及によりエイズ発症を高い確率で防ぐことができるようになりました。
抗HIV薬の副作用
HAARTでは複数の抗HIV薬を服用するということもあり、副作用が大きな問題となります
。 副作用は多岐にわたり、吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振、頭痛、不眠、うつ、発疹、湿疹、糖尿病、脂質異常症、肝機能障害、腎機能障害、血管疾患、骨密度低下など様々です。
エイズの治療
抗HIV薬による治療を行っておらず、エイズ発症が認められた場合は即抗HIV薬による治療開始となります。
当然、免疫不全により発症した病気の治療も同時に行われます。
HIVに感染しない人とHIVの進行が遅い人
危険な性行為などをおこなってもHIVに感染せず陽性にならない人、HIVに感染してもエイズにならない人、HIVが完治した人をご紹介します。
HIVはCD4からT細胞に侵入しますが、その際にCCR5というタンパク質を利用します。
このCCR5の中の32塩基という部分の欠損がホモ接合型で存在する人をCCR5△32といい、HIVが感染しないことが分かっています。
欧州では人口の1%がこのような変異を持っていると言われていますが、日本人にどの位の割合で存在するのかは不明です。
ホモ接合型とは対立遺伝子(遺伝子は2つ対になっている)の両方共が揃っていることをいい、一つだけの場合をヘテロ接合型といいます。
32塩基の欠損がホモ接合型であるということはCCR5というHIVにとってのCD4陽性T細胞への侵入口が2つとも塞がれていることを意味します。
32塩基の欠損がヘテロ接合型の人はヨーロッパで約14%いると言われています。
この人達はCD4陽性T細胞への侵入口が一つだけなので、HIVに感染はしますが通常の人よりHIVの進行が遅くエイズ発症までに時間がかかるということになります。
HIVに感染してもエイズを発症しない人がいる
300人に1人という割合でHIVに感染してもエイズを発症しない人がいます。(ヨーロッパでは100人に1人とも言われています。)
この人達をHIVエリートコントローラーといいます。また、ウイルス血症(ウイルスが血液中に侵入している状態)となっている人にもエリートコントローラーがいて、治療なしでHIVを抑制できます。
ただしウイルス血症のエリートコントローラーの中には数十年間ウイルスを抑制した後、突然エイズを発症することがあります。
エリートコントローラーはHLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)の型の一つで遺伝的に決まります。
エリートコントローラーは特殊な抗原提示(外敵の情報をT細胞に知らせる仕組み)によりHIVに対する反応が速く、ウイルスが増殖する前に感染したCD4陽性T細胞を殺すことができます。
(HIVに感染したT細胞を破壊するのはキラーT細胞と呼ばれる抗原提示を受けて活性化したT細胞の実働部隊です。キラーT細胞の大部分はCD8陽性T細胞と呼ばれるものです。これは普通の人も同様です。)
ただしエリートコントローラーは自己免疫疾患系の病気にかかりやすい傾向にあるようです。
HIVが完治した人
公式にHIV陽性からHIVが完治したと認められ名前も公表している人にドイツのベルリンで治療を行ったアメリカ人のティモシー・ブラウンさんという男性がいます。
ティモシーさんは同性愛者で当時の恋人との性行為によりHIVに感染しました。
その後さらに白血病を発症したのですが、ティモシーさんの主治医はこの白血病の治療に乗じてティモシーさんのHIVも一緒に治してしまおうと考えました。
その方法は幹細胞移植です。これは白血病で死を待つだけになってしまった人に行われる最後の手段でもありますが、主治医が考えた方法はHIVに感染しないCCR5△32を持つ人の幹細胞を移植するというものです。
移植のドナー探しはHLAの型が一致する人に加えCCR5△32を持つ人でなければいけないので困難を極めましたが、無事ドナーが見つかり手術が行われました。
目論見通りHIVの増殖が治まったものの白血病は再発してしまい、二度目の移植手術を受け現在に至ります。
この間謎の脳障害による手術を受けるなどHIV完治の過程は簡単なものではありませんでした。
では、ドナーさえ見つかればHIVは完治させることができるのでしょうか?
答えはノーです。
幹細胞移植はリスクが高く、移植の際や移植後に死亡してしまうことも少なくありません。
抗HIV療法によりエイズ発症をかなり遅らせることができる現在、リスクを天秤にかけた場合HIV陽性だけで幹細胞移植を受けるのはリスクが高すぎるのです。
また、ティモシーさんは元々CCR5の32塩基欠損がヘテロ接合型というHIVに比較的強い遺伝子を持っていました。
このことも完治に有利に働いたとする見方もあり、同じような完治者が現れてこないのが現状です。
ハルダ・クラーク理論
ハルダ・R・クラーク博士は胸腺に寄生虫が侵入することで、HIVへの抵抗力が無くなると述べています。
こちらの記事を参照してください。
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