役割と発汗のメカニズム 腋臭症(えきしゅうしょう・わきが)や多汗症について解説します。
目次
汗の役割とは?
汗の役割は主に体温調節の為にあります。
気温が高いときや運動をして体が熱を発生させた場合に汗をかき、その汗が蒸発することで体温を下げます。
体温を下げる目的で発汗が起こることを温熱性発汗といいます。
もう一つの役割として、手足の滑り止めのために汗をかくということがあります。
手足の汗は精神的ストレスを受けたときに反応して出ます。
このような発汗を精神性発汗といい、交感神経の刺激に反応して起こります。
ストレスを受けた状態というのは元来動物が危険を察知した状態ともいえます。
このような状態では手で何かをつかんだり、足で地面をけるときの滑り止めとして発汗が必要になります。
また、味覚の刺激に反応して汗が出ることを味覚性発汗といい、特に唇の周囲は大きく反応し汗を出します。
味覚性発汗は辛みのある食品摂取で起こりやすく、唐辛子などに含まれるカプサイシンは特にこの効果が強いです。
人の汗の量は?
汗をかく量は気温や運動量に左右されます。
夏季において運動習慣の無い男子の発汗量は1~2リットル、運動する人では2~3リットル程度です。
激しい運動をする人では1日に10リットルに達することもあります。
汗の成分は?
汗の成分は99%以上が水です。
原料は血液なので、血液の液体部分である血漿に含まれるものが低い濃度で汗に含まれています。
主な無機成分として、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、重炭酸イオンがあり、とりわけナトリウムイオンとクロールイオンは高濃度なので塩化ナトリウム(塩分)が水以外の汗の成分として大きな割合を占めます。
塩分濃度は一定ではなく、汗の量が増えるとともに高くなります。
有機成分としては、ブドウ糖、アミノ酸、タンパク質、乳酸、尿素、アンモニアなどが含まれています。
エクリン汗腺とアポクリン汗腺
汗腺には大きく分けてエクリン汗腺とアポクリン汗腺があります。
これ以外に脇の下に存在するアポエクリン汗腺がありますが、ここでは割愛します。
エクリン汗腺
ここまで説明してきた、いわゆる通常の汗は、全身に分布する汗腺であるエクリン汗腺から分泌されるものです。
エクリン汗腺(上図で「汗腺」と記してあるもの)は表皮から深部にのびる1本の管です。
管の下のほうの先端は糸くずを丸めたような糸球になっています。
皮膚にある汗孔(かんこう)は毛髪の無い部分に分布しています。
糸球の部分には血管や神経が分布しています。汗腺につながる神経を発汗神経といいここから脳の信号を受け汗が産生されます。
汗の作られ方
エクリン汗腺から分泌される汗は糸球の部分で二段階に分けて作られます。
最初に血液を原料とする前駆汗が作られ、次に希釈されて(ナトリウムイオンの一部が再吸収される)薄い汗となり皮膚面に排出されます。
汗のべとつきとニオイについて
前述したように汗をかく量が増えると、塩分濃度は上がります。
前駆汗の量が増えるとナトリウムイオンの量が増え再吸収できる限度を超えてしまうことが原因です。
汗をかいて肌がべとつくのはこの塩分によるものです。
汗の量が少なければさらっとして蒸発も早いですが、大量の汗は塩分量が増えるため蒸発しづらくなります。
また、汗の量が増えるとアルカリ性に傾くので、皮膚の細菌に対する殺菌効果が弱まり、汗のニオイが強くなってしまう可能性が高くなります。
アポクリン汗腺
アポクリン汗腺は限られた場所にしか存在しません。
脇の下、乳頭、乳輪、陰部、肛門周囲に多く存在し、臍(へそ)や胸部、外耳道、眼瞼にも存在します。
エクリン汗腺同様に最深部は糸球になっています。
毛の無い部分に開口するエクリン汗腺とは違い、毛包(毛根)の上部に開口しているので、汗は毛の周囲から皮膚表面にしみでてきます。
アポクリン汗腺はエクリン汗腺の10倍位の容積があります。
アポクリン汗腺から分泌される汗は多少濁っていて粘性が高く、色は白または灰色の半透明です。
成分は脂質、タンパク質、含硫アミノ酸、揮発性短鎖脂肪酸、男性ホルモン類、鉄などです。
脇の下の汗じみが褐色になるのは鉄によるものです。
アポクリン汗腺から分泌される汗にはフェロモンとしての作用があると言われていますが、詳細はまだ分かっていません。
腋臭症(わきが)とは
腋臭症・わきが(脇の下のにおい)とは脇の下のアポクリン汗腺から出る汗が、皮膚の細菌によって分解されることで独特の刺激臭を発することをいいます。
脇の下にはエクリン汗腺もあり、この汗も細菌に分解されるとアンモニア臭が強くなる傾向があります。
どちらの汗も分泌された直後は無臭ですが、時間の経過と共ににおいを発するようになります。
わきがのにおいに関与する菌は、Staphylococcus属(ブドウ球菌)、Diphtheroid属(ジフテロイド)、Corynebacterium属(コリネバクテリウム)等です。
においの原因となる分子は低級脂肪酸、揮発性硫黄化合物、揮発性ステロイドの3つに分類されています。
東洋人、特に日本人における発生頻度は欧米人に比べ非常に少なく約1割とされています。
腋臭症(わきが)の症状と発症時期
患者の訴えは主に、腋臭と衣服の黄ばみについてです。
腋臭は腋毛の生え始める時期の前後に発症するのが普通です。
症状が強い子供は小学校入学直後から発症する場合もあります。
その後成長と共に腋臭は強くなり、20歳前後くらいがピークとなります。
腋臭症患者はほとんどの場合、耳垢(みみあか)が湿っています。
外耳道にあるアポクリン汗腺は幼少期から既に発達しているので、耳垢が湿っているか、乾いているかは大きな判断材料の一つになります。
ただし耳垢が湿っているからといって必ずしも腋臭症であるとは限りません。
優勢遺伝により継承されるので、両親またはどちらかが腋臭症あるいは耳垢が湿っている場合がほとんどです。このことも大きな判断材料になります。
腋臭症(わきが)や耳垢の遺伝についてはこちらに詳しく書かれています。
⇒ワキガの遺伝と耳垢の関係
また、自分でにおいがあると訴える人の中には、自己臭妄想のある人(自臭症/自己臭恐怖症)もいるので注意が必要です。
腋臭症(わきが)の治療
腋臭症は本人が気にしなければ治療の必要はありません。
通常は脇の下を清潔にしておくことや、制汗剤などを使用することが一般的ですが、外科手術を受けるという選択肢もあります。
ただし手術には再発などのリスクもあり、必ずしも完治するとは限らないので注意が必要です。
多汗症とは
発汗が体温調節に必要な量を越えており、日常生活に支障をきたしている状態のものを多汗症といい、エクリン汗腺の機能亢進により起こります。
原因となる疾患があるものを続発性多汗症、原因不明なものを特発性多汗症といいます。
多汗症には全身性多汗症と局所性多汗症(限局性多汗症)があります。
多汗症の症状
全身性多汗症
全身性多汗症では全身の汗の量が多くなります。
内分泌異常(甲状腺機能亢進、褐色細胞腫など)や感染症(粟粒結核、細菌性心内膜炎、膿瘍など)、悪性腫瘍、膠原病、中枢神経疾患(脳血管障害、外傷、脳腫瘍、脳炎など)、薬剤の副作用が原因となるものや、原因不明の特発性のものがあります。
局所性多汗症
局所性多汗症は、体の一部分の発汗が多くなるものです。
局所性多汗症には掌蹠多汗症(しょうせきたかんしょう)、腋窩多汗症(えきかたかんしょう)などがあります。
掌蹠多汗症には手の平の汗が多くなる手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)や足の裏の汗が多くなる足蹠多汗症(そくせきたかんしょう)があります。
腋窩多汗症(えきかたかんしょう)は脇の下の汗が多くなるものです。
これらは主に精神的緊張により発汗が増加するものです。
多汗症の治療
原因となる疾患がある場合はその治療を行います。
薬物治療には内服薬と外用薬によるものがあります。
内服薬としては抗コリン剤が主に用いられます。
外用薬として塩化アルミニウムなど様々な成分が配合された制汗剤が市販されるようになっています。
一時的(数ヶ月間)に汗を止める方法として多汗が気になる部位にボトックス注射をする方法があります。
掌蹠多汗症の治療に交感神経を遮断する内視鏡手術などが行われる場合があります。
腋窩多汗症の治療に電磁波や熱、超音波の照射やレーザーを使って汗腺を破壊する治療が行われる場合があります。