常位胎盤早期剥離、前置胎盤、低置胎盤、癒着胎盤の原因、症状、治療について解説します。
Original Update by Louise Woodcock
目次
常位胎盤早期剥離とは
子宮体部の正常位置にある胎盤が出産前に子宮壁から剥離(はくり:はがれること)してしまう状態のことです。
母子双方に重篤な障害をもたらす危険性の高い疾患です。
子供が脳性麻痺となる原因として最も多いのが常位胎盤早期剥離です。
常位胎盤早期剥離の原因
はっきりした原因は分かっておらず、原因不明に発症する場合があります。
リスク要因として(発症しやすい人)、常位胎盤早期剥離の既往(きおう:過去にかかったことがある)、妊娠高血圧症候群、絨毛膜羊膜炎、前期破水、腹部外傷、外回転術(逆子を治すための治療)などがあります。
また、その他の要因として、羊水過多症、喫煙、コカイン、子宮筋腫、多胎、血栓性素因などがあります。
常位胎盤早期剥離の症状
急激な下腹部痛、性器出血は少量だが貧血がある(内出血しているため)、圧痛(下腹部を押すと痛い)、下腹部が張り硬くなる、などが起こります。
妊婦の場合、出血時、凝固系が活性化しているため、DIC(播種性血管内凝固:全身の血管に微小血栓が多発する)や出血性ショックを合併しやすくなっています。これらは急激に進行し、出血が止まらない、貧血、臓器障害等を起こす恐れがあり、母子共に危険な状態を招きます。
常位胎盤早期剥離の治療
大至急、分娩を行います。
子宮口が全開していれば、吸引・鉗子分娩、そうでなければ帝王切開を行います。
DICやショックがある場合、これらの治療を行います。
分娩終了後、子宮が収縮せず出血のコントロールができない場合、子宮を摘出します。
前置胎盤とは
胎盤が正常より低い位置にあり、子宮口を一部または全部覆ってしまうものです。
胎盤が内子宮口を完全に覆っているものを全前置胎盤、一部覆っているものを部分前置胎盤、胎盤下縁が内子宮口縁に2cm以内に達しているものを辺縁前置胎盤といいます。
また、胎盤下縁が内子宮口の近くにあるが、達してはいないものを低置胎盤といいます。
妊娠が進むにつれ子宮下部が伸展し出血が起こるため、帝王切開しなくてはならなかったり、帝王切開時に大量出血が起こることがあります。
帝王切開の経験がある患者の場合、癒着胎盤を起こす場合があります。また、帝王切開を行った回数が多いほど癒着胎盤が起きる確率は高くなります。
「病気がみえる vol.10: 産科」より
前置胎盤の原因
はっきりした原因は分かっていません。
リスク要因として(発症しやすい人)、帝王切開の経験がある、妊娠・出産した経験がある、高齢出産(35歳以上)、子宮筋腫がある、喫煙者、子宮内膜掻爬術を受けた事がある、中絶経験がある、子宮筋腫核出術を受けた事がある、多胎妊娠(双子など)、胎盤の形態以上などがあります。
前置胎盤の症状
妊娠中期以降に性器から痛みを伴わない出血が時折あります。無症状の場合もあります。
分娩直後に大量出血することがあります。
大量出血が起こると、DICや出血性ショックを起こす可能性があります。
前置胎盤の治療
出血が無い場合、妊娠32~34週から入院し、妊娠37週末までに帝王切開を行います。
出血がある場合、直ちに入院し、早産を予防します。妊娠37週末までに帝王切開を行います。
出血多量の場合や胎児の状態が良くない場合、緊急に帝王切開を行います。
帝王切開の経験がある患者の場合、癒着胎盤に備えます。
出血のコントロールが困難な場合や癒着胎盤を起こした場合、子宮を摘出する場合があります。
低置胎盤
低置胎盤は胎盤の位置が下がっているものの、内子宮口まで2cm以上の距離があるものです。
経膣分娩が可能ですが、大量出血する可能性もあります。
そのため、最初から帝王切開(予定帝王切開)を行うか、帝王切開に切り替えられる状態で経膣分娩を行う必要があります。
癒着胎盤とは
胎盤の一部または全部が子宮壁と癒着してしまい、分娩後本来なら自然に剥がれるはずの胎盤が剥がれないものです。
胎盤の絨毛が子宮筋層内に侵入することでこの癒着が起こります。
出産経験のある人に多くみられますが、頻度は稀です。
帝王切開率の上昇に伴い前置胎盤に癒着胎盤が合併する前置癒着胎盤が増えています。
癒着胎盤の原因
子宮切開後の瘢痕(はんこん:傷跡の部分)には絨毛が侵入しやすいため、帝王切開後に前置胎盤になった人に特に多くみられます。
前置胎盤の既往、帝王切開既往は大きなリスク要因です。他に子宮内容除去術を行ったことがある、高齢、出産回数が多い、多胎(双子など)、喫煙者、子宮筋腫核出後などがリスク要因となります。
癒着胎盤の症状
通常は出産後に自然と胎盤は剥がれますが、癒着胎盤の場合、出産後長時間経過しても胎盤が剥がれる徴候がありません。
胎盤用手剥離(たいばんようしゅはくり:手で胎盤を剥がす)を行うと、大量出血します。
癒着胎盤の治療
事前に診断できず、分娩後、胎盤が剥がれない場合、胎盤用手剥離(たいばんようしゅはくり:手で胎盤を剥がす)を試みます。剥がれない場合はそのまま温存します。
癒着の程度が軽く、胎盤が剥がれた場合は止血します。
出血がコントロールできない状態の場合、子宮を摘出(子宮全摘術)する場合があります。
事前に診断できた場合、出血がなければ保存療法として、自然剥離を待つか、抗ガン剤の一種であるメトトレキサート(MTX)を用いて胎盤を剥がす薬物療法があります。
温存療法で子宮が剥がれない場合、子宮を摘出(子宮全摘術)します。
出血がある場合、原則として子宮を摘出(子宮全摘術)します。
参考文献
「病気がみえる vol.10: 産科」
医療情報科学研究所 (編集)