腎不全とは何か、急性腎不全と慢性腎不全、尿毒症の原因、症状、治療、人工透析とは、腎移植などについて解説します。
目次
腎不全とは
腎不全とは腎臓の機能不全、つまり血液内の老廃物の濾過、血中の酸・アルカリの調整、ホルモンの産生などの機能が果たせなくなることです。腎臓の機能が失われると体内に老廃物がたまり、尿毒症になります。
腎不全というのは正式には病名ではなく病態を表す言葉です。腎不全は急性腎不全と慢性腎不全に大別されます。
急性心不全とは
急性腎不全は数時間~数週間単位の急激な腎機能低下により、体液の恒常性維持機構が破綻した状態・病態です。
具体的には、心不全や脱水・熱中症、事故や手術による大量出血などにより腎臓に送られる血液量が少なくなったときに起こります。
急性腎不全は腎前性急性腎不全、腎性急性腎不全、腎後性急性腎不全の3つに大別されます。
腎前性急性腎不全
腎臓自体には損傷が無く正常でありながら、循環血液量の減少、心拍出量低下などにより腎血流量が低下することで生じる急性腎不全です。尿細管に障害が起こると腎性急性腎不全となります。
腎前性急性腎不全の原因
出血、下痢、嘔吐、発熱、熱傷、利尿薬の服用、心筋梗塞、心タンポナーデ、などが原因で起こります。
腎前性急性腎不全の症状
乏尿(ぼうにょう:尿の排泄量の低下)、血圧低下、頻脈、皮膚乾燥、体重減少、倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、中枢神経症状などが起こります。
腎前性急性腎不全の治療
輸液、原因疾患の治療、栄養管理、水や電解質管理、血液浄化療法(下記慢性腎不全の透析を参照)などが行われます。
腎性急性腎不全
腎臓の障害により起こる急性腎不全です。
腎性急性腎不全の原因
腎前性急性腎不全からの移行(急性尿細管壊死)、薬剤や横紋筋融解症、急性尿細管間質性腎炎、急性腎炎症候群、その他血管障害などが原因となります。
腎性急性腎不全の症状
乏尿(ぼうにょう:尿の排泄量の低下)、高血圧、うっ血性心不全、肺水腫、倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、中枢神経症状などが起こります。
腎性急性腎不全の治療
原因疾患の治療を行います。原因となる薬剤がある場合、使用を中止します。 栄養管理、水や電解質管理、血液浄化療法(下記慢性腎不全の透析を参照)などが行われます。
腎後性急性腎不全
尿路の通過障害により尿がうっ滞することで起こる急性腎不全です。早期に尿路を確保することで腎機能は回復します。閉塞が続くと腎性急性腎不全に移行します。
腎後性急性腎不全の原因
後腹膜線維症、腫瘍の後腹膜・骨盤内への浸潤、神経因性膀胱、前立腺肥大症、前立腺癌、子宮癌、直腸癌などが原因となります。
腎後性急性腎不全の症状
乏尿(ぼうにょう:尿の排泄量の低下)、無尿、脇腹痛などが起こります。
腎後性急性腎不全の治療
原因疾患の治療、尿管・尿道カテーテルの挿入による導尿、状況により経皮的腎瘻造設(尿を出すためのカテーテルを背部から直接腎臓に挿入)や経皮的膀胱瘻造設(尿を出すためのカテーテルを直接膀胱に挿入)などが行われます。
慢性腎不全とは
単に腎不全と言った場合、慢性腎不全のことを指すことが多いようです。しかし現在、慢性腎臓病(CKD)という新しい概念ができたので、慢性腎不全もCKDのステージ4や5という風に表現するようになってきています。
CKDが進行すると徐々に機能しているネフロンが減少していきます。すると正常に働いているネフロンの負担が大きくなり残ったネフロンも次々とダメージを受け、やがて腎臓として機能のを失ってしまいます。これが慢性腎不全の末期状態です。
腎臓が機能しなければ尿毒症が起こり、放置すると数日で死に至ります。
慢性腎不全の原因、症状についてはCKDを参照してください。
慢性腎不全の治療
CKDのステージ4は腎不全といってもまだ機能しているネフロンが残っているので薬物療法と食事療法により人工透析をしないで済むよう残ったネフロンの延命を図ります。
通常ここまで腎臓が悪くなってしまうと、回復して正常な状態に戻すことは困難だと言われています。人工透析をしないで済む期間をどれだけ長く維持できるかということが治療のテーマとなります。
薬物療法
降圧薬、利尿薬、ステロイド、免疫抑制薬等その人の病状に応じた薬物が使用されます。副作用もそれなりに強いなど危険もあるので医師の指示に従うことが大切です。
食事療法
食事は病状に応じて綿密に計算して献立を考える必要があります。腎不全や重い腎臓病ではとても重要でありやっかいな問題でもあります。
食塩制限
慢性腎不全の合併症として起こる高血圧に対して食塩制限が必要となります。これは心不全や浮腫(ふしゅ:むくみ)の予防・治療効果もあります。
食塩を制限すると降圧剤に対する反応も高くすることができます。ネフロンの中にある尿を濾過する糸球体は毛細血管の集まりです。高血圧はこの糸球体に大きな負担をかけてしまいます。
食塩の摂取量はその人の病状により異なりますが通常は1日5g以下にすることで効果が出ます。いきなり食塩を制限すると味気ない食事が嫌になり続けられなくなるので、1~2ヶ月かけて徐々に減らし、食塩を制限した食事に慣れるようにします。
蛋白質制限
蛋白質(タンパクしつ)の摂取は腎臓に大きな負担をかけます。それは糸球体の血管は通常の血管より血圧が高くなっていることが関係しています。なぜ高くなっているかというと、糸球体の毛細血管は尿を濾過する必要があるからです。
蛋白質を沢山食べると腎臓の血流が増えてしまいます。正常な人は問題ありませんが、腎臓病の人にはこれが大きな負荷となります。 糸球体の血圧を抑え血管の損傷を防ぐために蛋白質の制限が重要となります。
その他の制限
必要に応じてカリウム、リン、エネルギー(カロリー)等の制限が行われます。
透析とは(人工透析・血液浄化療法)
腎不全が末期になると腎臓が回復することはなく、薬だけでは症状を抑えきれなくなります。この状態では尿毒症を防ぐ為に腎移植か透析療法を行うしかなくなります。
透析とは本来腎臓の役割である「老廃物の排泄」「水分や電解質の調節」「酸・アルカリの調整」を人工的に行う治療方法です。 透析療法には血液透析と腹膜透析の2種類があります。
血液透析
血液透析では体外に排出した血液をダイアライザーに通して浄化し、体内に戻します。
ダイアライザー ?Original Update
血液の出入り口をバスキュラーアクセスといいます。代表的なバスキュラーアクセスは内シャントと呼ばれるものです。シャントとは「短絡」を意味するもので、前腕にある動脈と静脈を手術でつないで作ります。
(実際に使用できるようになるのは手術後約2週間経過してからです)
静脈が細い人の場合人工血管を用いて内シャントを作成する場合もあります。 内シャントから血液を取り出しダイアライザーを介して透析が行われ、再び内シャントから体内に血液を戻します。
通常、週3回通院し1回あたり約4時間の透析を行います。
起こり得る合併症
透析を行うと体液の組成が急激に変化するため、合併症として血圧低下による悪心・嘔吐、頭痛、動悸や不整脈、倦怠感、筋けいれんなどを生じる場合があります。
腹膜透析
腹腔透析は自分の腹腔内に直接透析液を入れ、4~8時間貯留している間に腹膜を通して血中の尿毒素や水分、塩分を除去する方法です。昼間に透析液を交換するものと、機械を使用して寝ている間に行うものがあります。
ただし長期間行うと腹膜が劣化してしまうので、5~8年が限度と言われています。その後は血液透析に移行します。
腹膜透析 Original Update by Amber Case
CAPD(Continue Ambulatory Peritoneal dialysis)
日中複数回透析液を交換する方法をCAPDといいます。 透析液を出し入れするためのチューブである腹膜透析カテーテルを腹腔内に埋め込みます。このカテーテルを体外で透析液バッグにつなぎ透析液の出し入れを行います。
透析液の交換は1日4回毎日行います。1回の交換には20~30分かかりますが病院に行く必要はありません。 通院は月1~2回程度なので時間を取られずに済みます。
APD(Automated Peritoneal dialysis)
就寝中に自動腹膜灌流装置を使って透析液を交換する方法をAPDといいます。
起こり得る合併症
腹膜炎、カテーテル出口部の感染症、被嚢性腹膜硬化症(ひのうせいふくまくこうかしょう:腹膜の癒着により腸管が動かなくなり嘔吐や腹痛が起こる)などが起こる場合があります。
⇒腎臓病 腎不全を完治させる 透析をしない・回避して治す方法!
腎移植
末期腎不全に対して行われるもう一つの腎代替療法に腎移植があります。腎移植は根治的治療であり腎機能を回復することができます。 しかし日本では残念ながら提供者不足のため移植を受けたくても受けられない人が大勢います。移植を待っている間は透析を受けなくてはなりません。
腎移植を受けるには手術に耐えられる体力があることが条件です。年齢制限はありませんが心肺機能などから70歳くらいまでと考えられています。
腎移植の種類
腎移植には生きている人から臓器を提供してもらう生体腎移植と、事故や病気で亡くなった人から臓器を提供してもらう献腎移植があります。
生体腎移植
親子、兄弟、祖父母など血縁者から提供してもらうことを血縁者間腎移植といい、夫婦など姻族からの提供を非血縁者間腎移植といいます。
日本では6親等以内の血族、または配偶者と3親等以内の姻族が認められています。 血液型が一致していなくても構いません。
献腎移植
脳死と判定されたドナーから臓器提供されることを脳死腎移植といい、心臓停止後に提供されることを心臓死腎移植といいます。 血液型が一致および適合(不一致でもO型→A型など輸血可能な組み合わせなら可能)していなくてはなりません。
移植を希望するレシピエント登録を行ってから実際に提供されるまでの待機期間は平均15年です。
生体腎移植者のドナー(腎臓を提供する側)の手術やリスク
手術による感染やヘルニアの可能性は数%あると言われていますが死亡の可能性はほとんどありません。 2つある腎臓の1つを提供することで、当然腎機能は低下します。摘出後の腎機能は摘出前のおよそ70~75%になるとされています。
ドナーの手術
まず検査のために数日~1週間位の入院が必要となります。さらに摘出手術のために約10日間入院します。 手術は全身麻酔で行われ約3時間かかります。開腹手術と内視鏡手術で行う場合があります。
最近は負担の少ない内視鏡手術で行うことが多くなっています。この場合、手術後約1週間で退院となります。
また内視鏡を入れる1cm位の穴を脇腹に3箇所と、下腹部に6cm前後の手術創が残ります。
レシピエント(臓器を提供される人)の手術やリスク
移植手術は全身麻酔で行われます。手術前の数日~1週間前に入院し、手術時間は平均で約4時間です。経過が順調であれば2~4週間で退院できます。
生体腎移植の場合、腎臓はすぐに動き排尿を始めますが、献腎移植の場合、心停止後に移植されているので、排尿が始まる前に10~14日かかることがあり、それまでは人工透析を行います。
移植が成功すると透析より生存率は長いとされています。しかし、合併症として拒絶反応や免疫抑制薬の副作用による感染症、腫瘍などが起こる可能性もあります。
拒絶反応
移植で最大の問題となるのは拒絶反応です。体の免疫機能は移植された腎臓を非自己・異物とみなして攻撃します。 そのため免疫抑制薬を服用してこの拒絶反応を抑えます。移植後の3ヶ月間は最も危険な時期なので注意は必要です。
免疫抑制薬は一生飲み続ける必要があります。 薬には種類によって様々な副作用もあります。 また薬により全身の免疫力は低下する傾向にあるので、規則正しい生活を心がけ感染症の予防などに努める必要があります。
尿毒症とは
尿毒症は末期腎不全で起こる全身の臓器障害です。 腎臓は体に不要なものを尿として体外に排出したり、必要なものを過不足ないように調整して体の内部を一定状態に保つ働きをしています。
尿毒症はこれらの機能が正常に働かなくなることで起きる病気です。 尿毒素(尿素、クレアチニン、各種蛋白代謝産物などが代表)が血液を介して体内を巡ることで様々な全身症状をきたし、放置すると数日で死に至ります。
尿毒症の原因
急性腎不全や慢性腎臓病が進行し、末期腎不全となることで起こります。
尿毒症の症状
初期の腎不全では症状はほとんどなく、進行してもはっきりした自覚症状が無い場合も珍しくありません。しかし、尿毒症になると様々な症状が現れます。
中枢神経症状
頭痛、意識障害、幻覚、振戦、痙攣(けいれん)
眼症状
網膜症、赤眼症候群
末梢神経症状
知覚障害、レスロレスレッグ症候群(夜中に足がむずむずするなど)、灼熱脚証症候群(足の焼きつくような痛み)
免疫異常
重症感染症、日和見感染(常在菌による感染症)
血液異常
貧血、出血
心血管症状
難知性高血圧、心タンポナーデ、致死性不整脈、心不全、心膜炎、脳出血
呼吸器障害
胸水貯留、肺水腫
消化器異常
口臭、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢など
皮膚症状
?痒症(そうようしょう:皮膚のかゆみ)、色素沈着
骨障害
CKDに伴うミネラル代謝異常
尿毒症の治療
透析療法や腎移植が必要となります。
参考文献
「腎不全がわかる本 第3版」
出浦 照國 著
「病気がみえる vol.8: 腎・泌尿器」
医療情報科学研究所 (編集)
「腎臓病の最新治療」
川村 哲也、湯浅 愛 (監修)