不妊治療のリスクや顕微授精で障害を持った子供が生まれる可能性、不妊治療を始める前に知っておきたいことについて解説します。
目次
不妊治療を始める前に
不妊治療をこれから始めようと考えている人に読んで欲しい本が2冊あります。
1冊はすでに紹介した『不妊治療を考えたら読む本 科学でわかる「妊娠への近道」』です。この本は実際に不妊治療を行っている現場の医師である浅田先生がどのように治療が行われているかを解説したものです。
不妊治療を行うクリニックを運営している人が書いているので、技術の進歩や安全性の向上についてスポットが当てられている傾向があります。
もう1冊は「本当は怖い不妊治療」という本です。
ジャーナリストの草薙厚子さんという方が書いていて、医師の黒田優佳子先生が監修を担当しています。
不妊治療の裏にある「コウノトリ・ビジネス」の側面を取り上げ、様々な危険な側面にスポットを当て警鐘を鳴らしています。
顕微授精で先天異常を持つ子供が生まれる可能性
まず冒頭にショッキングな記載があります。
「欧米では不妊治療技術の1つである顕微授精によって生まれた子供には、自然に妊娠して誕生した子供に比べて、先天異常の発症率が高い傾向があるということが多数報告されております」
「不妊治療を考えたら読む本」では、こうあります。
生まれてきた子どもに、何か特有なことがあるのではないかという不安を持つ方は少なくないのですが、現在のところ、顕微授精が理由と考えられる問題が起きているという報告はありません。ただし、このような新しい技術には、長期にわたる継続的な追跡調査が必要です。
ささやかながら浅田のクリニックでも妊娠して不妊治療を卒業していく患者さんにお願いし、インターネットによるフォローアップ調査を行っています。先天性疾患の有無や子どもの成長などについて質問に答えてもらっているのですが、とくに変わったことはみられません。
両者ともに嘘はついていないと仮定すると矛盾があるようですが、絶対数としては少ないものの、確率的には顕微授精にはリスクがあると考えておいたほうがよいでしょう。
この対比でも分かるように日本と海外ではリスクに対する意識に差があるとのことです。
2015年に下記のニュースが世界中に流れたそうです。
「顕微授精に代表される生殖補助医療による妊娠で生まれた子は、そうでない子に比べ、自閉症スペクトラム障害である可能性が2倍である」
これはアメリカで行われた大規模疫学調査のデータが影響力のある雑誌に掲載された信憑性の高い記事だそうですが、なぜか日本では報道されなかったそうです。
日本では不妊治療の技術的な進歩に比べこれらに関する法整備は整っておらず曖昧な点が多いとのことです。ビジネスとしては繁栄しているものの、リスクに対しての認識が甘く、問題が起こって初めて自分達に危機意識が全く無かったことに気付くようです。
精子に対する認識
精子の状態は日によって違い、毎回の射精毎にバラツキが大きいと浅田先生は述べています。よく動く精子(運動精子濃度)がある程度いれば人工授精、中くらいなら体外受精、少なければ顕微授精を行うとしています。
つまりよく動いている精子が少なければ自分で卵子に辿りついて受精するのは難しいという判断です。
こうして自力で受精が難しいと判断されると顕微授精が行われるわけですが、単に「泳いでいる」というだけでは精子の品質は評価できないとのことです。
運動精子でも質の悪い不良な精子がいるのに、そこには目は向けられず、運動精子が少ないならば、その中のよく動く精子を選んで顕微授精が行われているのが現状のようです。
良く動き見栄えのいい精子でもDNAが損傷している場合があるとのことです。
自宅での採精の危険性
自宅での採精も良いとはいえないようです。
自宅で採精した場合は空気に触れることになりますが、実際の性交では起こらないことなので危険があると考えたほうが良さそうです。
特に夏場は雑菌が繁殖してしまうので危険度が増すとのことです。
卵子に対する認識
これは最も不自然な行為になりますが、顕微授精では卵子を人為的に破って精子を注入します。
この行為が安全であると考えるほうが不自然ともいえます。
培養液の問題
培養液に含まれる化学物質が有害だとされる説がありますが、これについては結論が出ていないままになっているのが現状のようです。
また培養液の種類によって出生児の体重に影響が出ると言う報告もあります。
先天異常の調査
2012年に国内で生殖補助医療における先天異常の調査がされています。
このデータでは染色体異常や先天奇形が一定数いることが分かり、翌年の実施時には出生率が増加していますが、それとともに先天異常の子供の数も増えています。
尚、この先天異常には自閉症や精神発達遅滞など追跡調査が必要なものは含まれていません。
自閉症や知的障害についてはスウェーデンで25年間の調査が行われています。
まず体外受精では自閉症のリスクは自然出生の場合と差がありませんでした。
次に体外受精と顕微授精とを比較した場合、知的障害リスクが1.5倍、精巣から手術で精子を取り出し顕微授精を行った場合においては知的障害リスクが2.4倍、自閉症リスクは4.6倍、精巣から精子を取り出して顕微授精を行い且つ早産だった場合、知的障害リスクが4.38倍、自閉症リスクは9.54倍という結果が出ています。
クリニックなどの施設やお金の問題
不妊治療を始めて10年が経ってしまい、つぎ込んだお金が5000万円という夫婦もいるそうです。
こうなると治療を辞めてしまえばこれまで使ったお金が無駄だったということになるので、続けてしまうという気持ちも理解できます。
各クリニックのホームページなどを見るといかにも妊娠できそうに思えるので期待してしまうのも無理はありませんが、40歳を過ぎると妊娠できる確率はぐっと下がります。
妊娠できない間に歳を取ってしまうので不妊治療は長引くほど成功率は下がるといえます。
クリニックの問題点
待ち時間
待ち時間が長いというのは多くの人が訴えている問題です。
妊娠できず長く通うと時間の消費も大きくなってしまいます。
クリニックにより診断能力や技術に差がある
ある夫婦は通っていたクリニックで、精子に問題はないが卵子の老化が問題と言われ、10回ほど顕微授精を繰り返しました。
しかし全く受精しないので不信感を持ち、別のクリニックに変えたところ、精子に「先天性欠損」があるといわれ治療を断念しました。
金額は分かりませんが、最初のクリニックで数百万円は使ったと思われます。
同様に大手クリニックを転々とし計33回も顕微授精を行い妊娠できなかった夫婦は、5回目の転院で精子にDNA損傷などの問題があることが分かり、治療を断念したケースが紹介されています。
このように最初の検査はあまり徹底的にやるという感じではなく、転院してこれまでの経緯を説明することでやっと詳細な検査が行われるという可能性もありそうです。
つまりクリニック側は治療をすれば儲かるので、検査よりも治療をしたがる傾向があるということを疑う必要があります。
このようなことがあれば「コウノトリ・ビジネス」と揶揄されても仕方ないでしょう。
クリニックを選ぶ際、大手だから安心ということはありません。
信用できる口コミを探すなど、もし妊娠できなくても納得できる施設で治療を受けることが大切です。
妊娠しやすい体質にするには?妊娠したい人の改善方法について!
参考文献
本当は怖い不妊治療 (SB新書) | ||||
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『不妊治療を考えたら読む本 科学でわかる「妊娠への近道」』
浅田 義正、河合 蘭 著