消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)、消化管穿孔の原因、症状、治療についてと、ピロり菌やNSAIDsとの関係について解説します。
目次
消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)とは
糜爛(びらん)が粘膜のただれた状態(胃炎)であるのに対し、潰瘍(かいよう)は粘膜の下の層まで欠損が達したものをいいます。
消化性潰瘍とは、胃酸の影響を受けて潰瘍を形成する病気のことで、代表的なものが胃潰瘍と十二指腸潰瘍です。
胃粘膜の下にある粘膜筋板より更に下の粘膜下層や固有筋層まで傷が深くなった状態が胃潰瘍です。(十二指腸潰瘍も同様です)
ただし急性の潰瘍は通常、急性胃粘膜病変として扱われます。 胃潰瘍や十二指腸潰瘍といった場合は、一般的に慢性潰瘍のことを指します。
重症化すると消化管穿孔(しょうかかんせんこう:下記参照)を起こす場合もあります。
胃潰瘍
40~60歳代に多く見られ、男女比はほぼ同じです。
消化性潰瘍の典型的な症状である心窩部痛(しんかぶつう:みぞおち周辺の痛み)は食後に多く起こることが特徴です。
十二指腸潰瘍
20~40歳代に多く見られ、男女比は約3:1で男性に多く見られます。
心窩部痛は空腹時に多く起こることが特徴です。
原因のほとんどはピロリ菌によるものです。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の原因
胃粘膜には防御機構が備わっており、通常は粘液や重炭酸園などにより胃酸からのダメージを防いでいます。(詳しくは、「胃と十二指腸の働きと消化 胃液の成分 胃酸 消化酵素などについて」を参照してください。)
しかし何らかの原因で、胃液と粘液などのバランスが崩れてしまうと、胃酸によるダメージを受けてしまうことがあります。
ピロリ菌が原因
この原因に大きく関わっているのがピロリ菌です。酸に強いピロリ菌がこの防御機構を崩してしまうことが近年の研究で明らかになってきました。
ピロリ菌が胃粘膜に感染すると、白血球の顆粒球やリンパ球などの炎症細胞浸潤が引き起こされ、それらから放出される種々の障害物質により胃の粘膜がもろくなり、胃酸の障害を受けやすい状況が作り出されます。
ただしピロリ菌は多くの人が保菌する日和見菌(ひよりみきん:状況により善玉菌にも悪玉菌にもなる)です。必ずしもピロリ菌により病気が引き起こされるわけではありません。
ストレスなどが引き金となりピロリ菌が悪玉菌と化すのではないかと考えられています。
ピロリ菌は除菌しないほうがいい?検査方法や感染経路について
NSAIDsが原因
鎮痛剤、解熱剤、抗血小板薬として使用されるNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド系消抗炎症薬)の副作用により胃潰瘍が起こる場合もあります。
NSAIDsが原因となる胃潰瘍は特に高齢者に多く見られます。
その他の原因
アルコールの飲み過ぎやビスホスホネート等の薬剤、ゾリンジャー・エリソン症候群、副甲状腺機能亢進症、門脈圧亢進症などが発症に関与する場合があります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の症状
心窩部痛、膨満感(お腹の張り)、悪心(吐き気、むかつき)、嘔吐、胸やけ、食欲不振などを繰り返します。
消化管出血を合併している場合、突然の吐血(コーヒーのような色の血)、下血(タール便と呼ばれる黒っぽい便)、貧血、ショックなどが起こることがあります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の検査
診断には内視鏡検査が欠かせません。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の治療
出血がある場合
特にショックを起こしている場合は輸液や輸血が優先されます。その後、胃酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬が投与されます。
内視鏡的治療として、クリッピング、エタノールの局部注射、高張Na・エピネフリン局部注射などが行われます。内視鏡での治療が困難は場合外科手術が行われる場合もあります。
出血がない、または止血後
ピロリ菌の感染がある場合はピロリ菌を除去します。
NSAIDsを服用していた場合は中止しますが、無理な場合はプロトンポンプ阻害薬に加えて、プロスタグランジン製剤(防御因子増強薬)の投与などが行われます。
ピロリ菌の感染が無く、NSAIDsも使用していない場合、プロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬などの胃酸分泌抑制薬が用いられます。
水の摂取を見直す
水の摂取が足りないことが原因でこの病気が起こっている可能性もあります。
⇒水を飲むだけの健康法!病気を治す飲水法 水ダイエットの効果は?
消化管穿孔とは
消化管に穴が開くことで、腸管の内容物が腹腔内にもれ出し、腹膜炎を引き起こします。
大きく分けて、上部消化管穿孔と下部消化管穿孔があります。
上部消化管穿孔とは
胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどが原因で胃や十二指腸に穴が開くものです。
それぞれの病名から、胃潰瘍穿孔、十二指腸潰瘍穿孔、胃癌穿孔と呼ばれる場合もあります。
胃潰瘍穿孔は十二指腸潰瘍穿孔に比べ高齢者に多く見られます。
上部消化管穿孔の症状
突然、上腹部の激痛が起こります。
上部消化管穿孔の治療
軽傷の場合、絶飲食、輸液、抗菌薬、酸分泌抑制薬、胃管挿入などによる保存的治療が行われます。
悪化した場合や重症の場合、外科手術による縫合などの治療が行われます。
下部消化管穿孔とは
大腸癌、憩室炎、炎症性腸疾患などが原因で起こります。
大腸癌が原因の場合、大腸癌穿孔と呼ばれる場合があります。
高齢者に多く見られる傾向があります。
下部消化管穿孔の症状
原因となる疾患により異なりますが、腹部に持続的な痛みが起こります。
下部消化管穿孔の治療
早急に開腹手術が行われます。
消化管穿孔のその他の原因
上記の病因以外に、外傷や内視鏡操作時に起こることもあります。
西式甲田療法
西式甲田療法では、胃潰瘍などの胃腸病を健康的に改善することが可能です。
ただし必ず専門家の指導の元行うようにしてください。
⇒難病 原因不明の病気が治る西式甲田療法とは 少食 断食の効果について
参考文献
「病気がみえる 〈vol.1〉 消化器」
医療情報科学研究所 (編集)
「胃の病気とピロリ菌―胃がんを防ぐために」
浅香 正博 著