胃と十二指腸(12指腸)の働きについて解説します。
胃の働きとは
Original Update by?“Stomach002” by ignis?
1.食道 2.ヒス角 3:噴門 4:胃角 5:幽門 6:十二指腸 A:胃底部 B:胃体部 C:前庭部 X:小彎 Y:大彎 ?(WIKIより)
食道を通って運ばれた食べ物は胃にて消化の下準備を行います。成人の胃の容量はおよそ1.5?あり、食べ物を一時的に蓄えられるようになっています。
胃の内側の壁には胃小窩(いしょうか)という穴が多数あり、胃液を分泌する胃腺につながっています。胃底部と胃体部(上図参照)の胃腺からは、ペプシノーゲンや胃酸を多く分泌します。
胃酸はpH2(※)という強い酸性の消化液で化学的には塩酸です。皮膚がただれるほどの強い酸です。 医学が現在のように発達するまでは、胃の消化は機械的な胃の運動によるものだけと考えられていました。
胃の中に酸の存在は認められていたものの、消化が酸で行われるなら、なぜ胃自身が消化されてしまわないのか、という疑問があったからです。
その後の研究により、胃の入り口である噴門から幽門(上図参照)までびっしりと粘液で保護されており、酸に対するバリアの働きがあることが分かりました。
さらに副細胞から分泌されるアルカリ性の重炭酸塩が酸を中和し、胃粘膜の表面は常時pH5~7に調整されています。
※pH(ピーエイチ:水素イオン指数)は7が中性、値が小さい程酸性が強く、大きいほどアルカリ性が強い。
胃粘膜の層に関しては「胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因、症状、治療とピロり菌、NSAIDsについて」を参照してください。
胃の蠕動運動(ぜんどううんどう)
胃は筋肉でできています。この筋肉が15~20秒間隔で収縮と弛緩を繰り返し、食べ物を細かく砕き(くだき)胃液と混ぜ合わせます。これを胃の蠕動運動といいます。
かゆ状になった胃の内容物は小腸が消化吸収できるスピードで少しずつ幽門を通り、十二指腸(上図参照)に送られます。
胃液の成分とは
胃液は主にペプシノーゲン、粘液、リパーゼ、胃酸などからできていて1日に約2~3?分泌されます。ペプシノーゲンはペプシンの前駆体であり、塩酸によりペプシンに変化します。
ペプシンはタンパク質分解酵素の一つで、タンパク質を分解する消化酵素(※)です。
リパーゼは脂質を分解する消化酵素です。
炭水化物を分解する消化酵素であるアミラーゼは唾液や膵液に含まれており、胃液には含まれていません。
胃酸は食べ物に混入している細菌などを殺菌し、腐敗や発酵を防ぎます。 粘液は胃壁を保護していますが、ストレスなどにより自律神経のバランスが崩れると、粘液と胃酸のバランスも崩れ、胃壁が消化されてしまい胃潰瘍などが起こる原因となります。
また胃酸に抵抗性があるヘリコバクター・ピロリ菌が胃の粘液を破壊することが最近の研究で明らかになっています。 胃は炭水化物やタンパク質は吸収しませんが、アルコールだけは吸収します。
※消化酵素は食物を化学的に最小単位に分解するための分解酵素です。
⇒ピロリ菌は除菌しないほうがいい?検査方法や感染経路について
胃液分泌について
胃液の分泌には頭相、胃相、腸相という3つの仕組みがあります。
頭相(脳相)
食べ物を想い浮かべた時や、物を食べたときの味覚、嗅覚、口に食べ物が入ったときの刺激による無条件反射など、脳からの刺激により胃酸が分泌される仕組みが頭相です。
胃液の分泌の約30%を占めています。
胃相
食べ物が胃に入ったときに分泌される仕組みを胃相といいます。
胃液分泌の60%以上を占めます。
腸相
十二指腸に食べ物が入ると、はじめは胃酸の分泌は促進されますが、十二指腸上部の細胞に食物が触れると胃液を抑制する指令が出されます。
胃液は少量分泌され食べ物は胃から十二指腸へ少しずつ送られます。この仕組みを腸相といいます。
十二指腸の働きとは
Original Update by Olek Remesz
十二指腸は、胃からつながる小腸の始まりの部分です。 長さは約25cmでおよそ人の指12本分の長さであるためこの名がつきました。
十二指腸では胃が消化したかゆ状の食べ物に、膵液(すいえき:膵臓で作られる)や胆汁(たんじゅう:肝臓で作られ胆嚢に蓄えられている)などを加えて本格的に消化を行います。
胃酸により酸性になったかゆ状の食べ物の刺激により、十二指腸からパンクレオザイミン(コレシストキニン)というホンルモンが分泌されます。
このホルモンの分泌により、膵臓(すいぞう)や胆嚢(たんのう)に働きかけ、膵液や胆汁が十二指腸内の乳頭(ファーター乳頭)という場所から分泌されます。
膵液はアルカリ性で消化液の中でも最も多種類の消化酵素を含んでいます。 1日に約1.5?分泌されます。
胆汁は消化酵素を含まない消化液で、脂肪酸の消化・吸収をスムーズにします。
十二指腸で分泌される消化酵素について
十二指腸で分泌される消化酵素には、タンパク質を分解するトリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチターゼ、糖質(炭水化物)を分解するアミラーゼ、脂質(脂肪)を分解するリパーゼ、コレステロールを分解するコレステロールエステラーゼ、レシチンを分解するホスホリパーゼなどがあります。
膵液はアルカリ性のため、胃で消化された酸性の食べ物を中和し、pH値を中性(pH6~7)に保つと共に十二指腸の粘膜を胃酸から保護します。
参考文献
「カラー図解 生理学の基本がわかる事典」
石川 隆 (監修)
「胃の病気とピロリ菌―胃がんを防ぐために」
浅香 正博 著