尿路結石(腎臓結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石)の痛み(疝痛発作)、原因、症状、治療、予防などについて解説します。
目次
尿路結石とは
尿路とは尿の通り道である腎盂、尿管、膀胱、尿道を指します。尿路結石はこの尿路に石ができて詰まる病気です。
腎臓から尿管を上部尿路、膀胱から尿道を下部尿路といい、尿路結石は石のできる場所によって上部尿路結石と下部尿路結石に分けられます。このうち上部尿路結石が全体の約96%を占めています。
さらに石のできる部位によりそれぞれ、腎臓結石(腎結石)、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼ばれます。 男女比は2.4:1で男性に多く、男性は30~50代、女性は閉経後の50歳以降に多くみられる傾向があります。
肥満(BMI25以上)の人が罹患する率が高く、糖尿病や脂質異常症などを合併する頻度が高くなっています。また、寝たきりの人もなりやすいといわれています。運動できないことでカルシウムが骨から血中に溶け出し、尿中に大量に排泄されカルシウム結石ができやすくなるからです。
結石とは?結石の種類と原料となる物質
結石の原料となる物質に、シュウ酸(蓚酸)、リン酸、カルシウム、尿酸、リン酸マグネシウムアンモニウム、シスチンなどがあります。
尿中でシュウ酸とカルシウムが結合してできた物質がシュウ酸カルシウム結石です。尿路結石の中で最も多くみられます。
リン酸とカルシウムが結合してできたものがリン酸カルシウム結石ですが、シュウ酸カルシウムが少し混ざっていることが多いです。
尿酸が結晶化して固まったものが尿酸結石、リン酸マグネシウムアンモニウムを主成分とするリン酸マグネシウムアンモニウム結石、尿細管からシスチンが再吸収されにくくなり作られるのがシスチン結石です。
尿路結石の原因
消化器系の病気と同様に尿路結石も食生活の欧米化が原因で患者数が増加しているといわれています。
シュウ酸カルシウム結石ができる原因
特に上部尿路結石は増加傾向にあり、そのほとんどがシュウ酸カルシウム結石によるものです。
この結石ができる原因に最も大きく関わっているのが動物性脂肪です。脂肪は体内で分解されて脂肪酸となり腸に到達します。この脂肪酸にはカルシウムと結合しやすい性質があり腸管内でカルシウムと結合して便として排泄されます。
すると本来腸管でカルシウムと結合するはずだったシュウ酸が余ってしまい、便としてではなく、尿として排泄されることになります。こうして尿中でカルシウムとシュウ酸が結合して結石ができてしまうことになります。
さらに動物性蛋白質を過剰に摂取すると、カルシウムと尿酸の尿中への排泄が増え、結石を防ぐ働きのあるクエン酸が減ってしまいます。これも結石ができる一因とされています。
その他の結石ができる原因
リン酸カルシウム結石は尿がアルカリ性に傾いたときに形成されやすく、利尿剤の使用などが原因といわれています。
尿酸結石は、尿中に尿酸が多いときや尿が酸性に傾いているときに形成されやすくなります。
リン酸マグネシウムアンモニウム結石は細菌感染によって尿のアルカリ度が高まったときにできやすくなります。
シスチン結石は、尿細管からシスチンが再吸収されにくくなることで形成されますが、これは遺伝性の病気が原因です。
カルシウム不足と過剰摂取
カルシウムは不足しても過剰に摂っても結石の原因となります。カルシウムの基準値は以前に記事にしましたが1日650mg以上です。しかし実際は600mg以下の人が多いので、カルシウム不足に注意する必要があります。
高カルシウム血症を防ぐには1日2,500mg以上摂ってはいけませんが、カルシウム結石を作らないようにするには1日の摂取量を800mg以下に抑えたほうが良いとされています。
従ってカルシウム摂取量の目安は成人で1日650~800mgが適量ということになります。 (成長期の子供は多めに摂る必要があります)
女性ホルモンの減少
女性は更年期を過ぎると尿路結石を発症しやすくなります。これは女性ホルモンの分泌が減少することが大きな原因です。
女性ホルモンには結石を防ぐクエン酸を増やす働きがあります。一方男性ホルモンはシュウ酸を増やす作用があるので、これが男性に尿路結石が多い原因と考えられています。
また更年期になると骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になりやすくなります。女性ホルモンのエストロゲンには骨の健康を維持する働きがありますが、更年期でこのホルモンが減少すると骨吸収(骨を壊して新しい骨を作ろうとする)のスピードに骨形成が追いつかず、カルシウムが血中に溶け出してしまいます。
こうして骨がスカスカになるのが骨粗鬆症ですが、過剰に溶け出したカルシウムは尿中に排泄されカルシウム結石を誘発します。
遺伝的要因
シスチン結石はシスチン尿症という先天的なアミノ酸の代謝異常で起こります。カルシウム結石で遺伝性は確認されていませんが、再発を繰り返す人は家族の尿路結石の罹患率が高いという報告があります。
代謝異常
高カルシウム尿症、高シュウ酸尿症、高尿酸尿症、低クエン酸尿症などは結石の形成につながります。これらは肥満と密接な関係があり、低クエン酸尿症以外は肥満度が増すにつれ頻度が高くなります。
尿路感染症
腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎などの尿路感染症にかかると尿がアルカリ性になるため、リン酸マグネシウムアンモニウム結石が形成されやすくなります。
尿の通過障害
尿管狭窄、前立腺肥大症などにより尿が通りにくくなると結石ができやすくなります。また尿路感染症のの原因にもなります。
尿が酸性かアルカリ性か
尿のpH(ピーエイチ:水素イオン指数)は通常弱酸性ですが、酸性に傾く(pHが低下)と尿酸結石やシスチン結石ができやすく、アルカリ性に傾くとリン酸カルシウム結石やリン酸マグネシウムアンモニウム結石ができやすくなります。
尿の酸性化は肥満と関係があると考えられています。
薬剤
ステロイドホルモン剤、活性型ビタミンD製剤、カルシウム製剤などはカルシウム結石を形成しやすく、その他の薬剤でも結石が作られやすいものがあるので注意する必要があります。
その他尿路結石につながりやすい病気
メタボリックシンドローム、原発性副甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、尿細管性アシドーシス、サルコイドーシス、高カルシウム血症、痛風、高尿酸血症などが原因となり得ます。
尿路結石の症状
尿路結石の症状は石のできた場所によって異なります。
腎臓結石(腎結石)
結石のできた場所により、腎盂結石、腎杯結石、腎実質結石などがありますが、ほとんどは腎盂結石か腎杯結石であり、腎実質結石ができることは稀(まれ)です。
尿路結石の大半は腎臓で発生します。結石の元となる結晶はネフロンの中の尿細管に生じます。この結晶が尿細管の中でかたまりとなり、少しずつ大きくなり腎杯、腎盂へ押し出され結石となります。
腎結石は自覚症状が少なく、鈍痛(どんつう:にぶい痛みや重苦しさ)や血尿がある場合もありますが、健康診断などの検査を受けるまで気付かないことも少なくありません。
Original Update by Piotr Micha Jaworski; PioM
6-腎盂(腎盤) 8-腎杯 13-ネフロン
その他は「泌尿器 腎臓の位置 腎臓の働き 尿管 膀胱 尿道 排尿メカニズムについて」を参照してください。
尿管結石
腎結石が尿管に落ちた物が尿管結石です。強い痛みをもたらすので、腎結石の段階で気付かれないものも尿管結石で発見されることが多く、尿路結石の中で最も頻度が高くなっています。
メッシ選手も悩まされた尿管結石
2015年にサッカーのメッシ選手が来日した際、クラブワールドカップの準決勝を欠場したのも尿管結石が原因です。
バルセロナのアルゼンチン代表FWリオネル・メッシが、17日に行われたFIFAクラブワールドカップ準決勝の広州恒大(中国)戦を尿管結石で欠場したが、痛み止めも効かないほどの激痛に苦しんでいたことが明らかになった。20日の南米王者リバープレートとの決勝戦出場に暗雲が漂っている。スペイン地元紙「マルカ」が報じている。
この後メッシ選手は治療により結石を無事取り除くことができ、決勝に出場できた上に先制ゴールを挙げる活躍を見せましたが、この痛み止めも効かないほどの激痛
は疝痛発作(せんつうほっさ)と呼ばれるものです。
尿管は25~30cmの管で太さが一定ではなく詰まりやすい形状をしていると言えます。結石が尿管をふさいで尿の流れが悪くなると腎盂内圧の急激な上昇と尿管の痙攣(けいれん)などで激しい痛みが起こります。
疝痛発作が起こると顔面蒼白、冷や汗、悪心・嘔吐などがみられることもあります。痛みが下に広がる放散痛も起こり、男性は鼠径部や陰嚢(いんのう)、女性は外陰部などに痛みが走ります。
結石が膀胱に落ちるとこの痛みは無くなり、自然に排出されます。
しかし結石が長期に渡って同じ部位にとどまると、尿管粘膜に癒着し嵌頓結石(かんとんけっせき)となり自然に排出されず、腎後性腎不全、急性腎盂炎、敗血症、尿溢流(にょういつりゅう:腎盂外に尿が溢れる)などを引き起こすことがあるので、仮に痛みが無くなっても必ず病院へ行くようにしましょう。
膀胱結石
下部尿路結石のほとんどが膀胱結石で高齢者特に男性に多くみられます。 頻尿、排尿困難、排尿痛、血尿、膿尿、下腹部の不快感、二段排尿(排尿の途中で尿が途切れる)などが起こります。
尿道結石
膀胱結石が下降して尿道にとどまったもので、男性に多くみられますが、全体的には尿道結石が起こることは稀です。
強い排尿痛、排尿困難、血尿がみられます。完全に詰まって尿が出なくなることもあります。
尿路結石の治療
結石の大きさやできる場所、尿の通過障害の有無などにより治療方法は異なります。大きく分けて保存的療法と積極的除去法があります。
保存的療法
石が小さく腎臓の機能低下などが無い時に選択されます。
自然排石促進法
水分をたっぷる摂ることで尿量を増やし、尿管の蠕動運動を促します。1日2リットル以上を摂取するようにします。
縄跳びやジャンプ運動を行うことも効果があります。
補助的に尿管を広げる薬剤や利尿剤を用いる場合もあります。痛みが出た場合、鎮痛剤などで抑えますが6ヶ月以上経過して排石されない場合は積極的除去法に移行します。
薬物療法
主に尿酸結石とシスチン結石の場合に選択されます。
薬剤で石を溶かして排泄します。 並行して自然排石促進法を行うと効果が高まります。
積極的除去法
現在、ESWL(TULとPNLの併用も含む)が主流となっています。ESWL、TUL、PNLのいずれも不可能の場合、開放手術(開腹手術)が行われます。
体外衝撃波結石破砕術(ESWL)
特殊な装置で発生させた衝撃波により体の外から結石だけを粉砕します。砕けた石は尿と共に排泄されます。1~複数回行います。
妊娠中に行うことはできません。
経尿道的結石破砕術(TUL)
内視鏡を用い、モニターで直接結石を確認しながら破砕・摘出を行います。破砕方法はレーザー、超音波、電気水圧衝撃波などがあります。
経皮的結石破砕術(PNL)
背中から腎臓にかけて穴を開け、内視鏡を挿入して破砕します。砕方法は主にレーザーや超音波です。
妊娠中や全身麻酔が不可能な人は行うことはできません。
尿路結石の予防
尿路結石の再発防止には食生活の見直しや適度な運動、規則正しい生活が大切になります。
水分をしっかり摂る
水分を十分に摂ることは尿量を増やし、結晶が作られることを抑制します。1日の尿量が1リットル以下の人は結石が作られるリスクが高いことが分かっています。
食事以外に2リットル以上の水分補給が望ましいとされています。水分補給には水道水やミネラルウォーター、麦茶、ほうじ茶が適しています。下記のシュウ酸が含まれている飲料には注意が必要です。
食生活
動物性脂肪や動物性蛋白質を控える
前述したように動物性脂肪や動物性蛋白質を摂りすぎないようにします。 肉の脂身や揚げ物、ファーストフードなどはできるだけ控えるようにしましょう。
シュウ酸を摂り過ぎないようにする
シュウ酸は様々な食品に含まれ結石が作られる要因となります。ほうれん草やキャベツ、ブロッコリー、レタス、サツマイモ、ナスなどに多く含まれますが、シュウ酸は水に溶けるため、ほうれん草などは茹でて食べることでシュウ酸の量を半減できます。
またシュウ酸はカルシウムと一緒に摂ることで便として排泄されます。カツオブシやちりめんじゃこと一緒にほうれん草を食べることは理にかなっています。ごまあえやグラタンなどで食べたり、ブロッコリのクリーム煮やサツマイモやナスは味噌汁に入れるなどするとシュウ酸を減らせます。
緑茶、ココア、コーヒー、紅茶などにもシュウ酸が含まれるので飲み過ぎないようにします。シュウ酸が少ない飲み物はほうじ茶や麦茶などです。紅茶、ココア、コーヒーにはミルクを入れることをお勧めします。
塩分や糖分の過剰摂取に気をつける
塩分や糖分の過剰摂取も結石ができる要因となるので、摂り過ぎには気をつけます。特に清涼飲料水は糖分摂りすぎの原因になりやすいので控えたほうがよいでしょう。
カルシウムを適度に摂る
結石患者にはカルシウム不足の人が多くみられます。 牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品や小魚、海藻、緑黄色野菜、大豆製品などを意識して摂るようにします。
サプリメントを使用する場合は過剰摂取に気をつける必要があります。
クエン酸・マグネシウムを摂る
クエン酸やマグネシウムには結石の形成を抑制する働きがあります。
クエン酸は果物(特に柑橘類)や梅干し、酢などに多く含まれています。
マグネシウムは大豆製品、魚介類、海藻、ナッツ類などに多く含まれています。
プリン体を摂り過ぎないようにする
プリン体は尿酸の原料となるので摂りすぎに注意します。
特に肉や魚の内臓や干物、アルコールなどに多く含まれています。
参考文献
スーパー図解 尿路結石症 (トップ専門医の「家庭の医学」シリーズ) | ||||
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「病気がみえる vol.8: 腎・泌尿器」
医療情報科学研究所 (編集)